掌編小説・『山』

夢美瑠瑠

第1話 恵子の場合

 山之手やまのて 恵子けいこは、平凡なOLだった。

 19才で、小柄だが、引き緊まって均整の取れた、健康的な肉体美をしていて…夢見がちな性格のパラサイト・シングルだった。 


 彼女は、いわゆる、「山ガール」を自称していて、軽登山が趣味。

 週末から、今日の「山の日」にかけて、キャンピングカーを駆って、登山行を敢行していたのだった。

 

 「日本百名山」の全制覇、踏破が目標で、3分の一をクリアしていた。

 もともと裕福な家庭の子女で、中高大一貫のお嬢様学校の出身で、小さいころから習い事にフィギュアスケートもしたりして、そういうだから都会のセレブというタイプ。

 想像に難くないが、かなり人目を惹く美女だった。


 順風満帆の人生行路を歩んできて、苦労なくすくすくと育ち、そのせいで性格も明るく素直。

 「そこに山があるから登るのだ」…初めてエベレストを征服した Sir・

ヒラリーという貴族はそう言ったらしいが、 若い恵子のヤマへの憧れも、さしたる故事来歴があるわけではない気まぐれに過ぎず、健康や気晴らしや孤独になるにはちょうど都合がいい、と言うだけだった。 飛びぬけた美女ゆえになんとなく”孤独癖”が生じる…そういうことがままあるものだ。


<続く>

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