第40話 内政改革の始動
天下統一から、およそ半年。戦乱の時代が終わりを告げ、劉備が即位し、将軍たちがそれぞれの新しい道を歩み始めた後、いよいよ本格的な内政改革が始まった。それは、武力ではなく、知恵と愛がもたらした、新しい時代の幕開けだった。
その日の午後、私は孔明と一緒に、宰相府の一室で、新しい国のあり方について話し合っていた。卓の上には、墨で描かれた、広大な地図が広げられている。地図には、街道が整備され、新しい村が生まれ、農地が広がる様子が描かれていた。その地図の余白には、新しい学校や市場の印が書き加えられていく。それは、もはや戦の布陣図ではなく、平和な未来を描く、希望の設計図だった。
「孔明様……本当に、私たちが、この国を作るのですね」
私の声は、驚きと、そして、深い感動を含んでいた。かつては、ただの東大生だった私が、今では、一国の宰相の妻として、この国の未来を担う。その事実に、私は、胸が熱くなるのを感じた。
「ええ。あなたの知恵が、この国の土台を作ってくれた。今度は、その土台の上に、民が豊かに、そして、平和に暮らせる家を、二人で建てていきましょう」
孔明は、私の手を取り、その温もりを私の手のひらに伝えた。彼の指先からは、この国の未来を築くことへの、強い決意と、そして、私への深い愛が伝わってきた。彼の眼差しは、夕焼けの光を受けて、いつにも増して、優しく、そして、どこか……切ない色を帯びているように感じた。
(やばい、やばい、やばい……孔明と二人で、新しい国を作るってこと!?これって、もう、夫婦共同プロジェクトじゃん!いやいや、こんなの、普通の夫婦じゃありえない!だって、普通の夫婦は、家計をどうするかとか、子供の教育をどうするかとか、そんなことで喧嘩するんでしょ?でも、私たちは、この国の経済をどうするか、この国の民の教育をどうするかで、話し合ってるんだよ?これって、もう、最強の夫婦じゃない!?いや、待って、これって孔明は、この夫婦共同プロジェクトを、最初から作ろうとしていた……!やだ、イケメンすぎる!まさか、私が戦争を終わらせるために、無意識に撒き散らしてきた『平和の種』を、こうして一つ一つ集めて、新しい国を築く『必然性』に変換しようとしてくれているの!?)
私の思考は、孔明の愛に触れ、さらに暴走していく。それは、ただの妄想ではない。私の行動すべてに「必然性」を与える、新たな価値観の再構築だった。
私たちは、まず、納豆とプロテインの普及を、全国規模で進めることにした。兵士の体力増強のためだけでなく、民衆の栄養改善のためだ。これにより、疫病が減り、子供たちが健やかに育つ。次に、綿布団と、新しい農具の普及だ。これにより、冬の寒さで苦しむ者が減り、農業生産量が増加する。人々は、もはや飢えや寒さに苦しむことなく、穏やかな日常を享受できる。
最後に、化粧品だ。これにより、女性たちは、美を競い合うのではなく、美を分かち合うようになる。その美が、彼女たちの心を豊かにし、平和な家庭を築くための、小さな土台となる。
私たちは、それぞれ異なる場所で、この三つの知恵を広めていく。関羽は、街道整備の現場で、納豆とプロテインの美味しさを民衆に伝え、張飛は、食堂で納豆料理を開発し、馬超は、西涼の民に、温かい綿布団を配っていく。彼らは、もはや武人ではなく、平和な世を築くための、新しい英雄たちだった。彼らが民衆に感謝され、笑顔を向けるたび、私の胸の奥に、ほんの少しずつ溜まっていた、あの罪悪感の澱みが溶けていくような気がした。
その頃。
南郡のとある村では、張飛が大きな木製の桶の前で、腕まくりをして納豆をかき混ぜていた。豆がぶつかり合う鈍い音と、独特の発酵臭が広がる。張飛は、手早く納豆を混ぜると、その粘り気のある糸を面白そうに箸で持ち上げ、子供たちの目の前に差し出した。
「おう、ちびっ子!この糸、面白れぇだろ?これを食えば、おめぇらも俺様みてぇに強くなれるぞ!」
子供たちは、最初は恐る恐る糸を触っていたが、やがてその不思議な感触に大はしゃぎし、顔や服に糸をつけながら、納豆を口いっぱいに頬張った。その様子を見た張飛は、雷のような大声で笑い、村中にその笑い声が響き渡った。
西涼の荒涼とした大地では、馬超が、顔いっぱいに泥をつけた子供たちに、白い綿布団を手渡していた。
「さあ、これにくるまって眠るんだ。もう、夜の寒さで震えることはない」
子供たちは、ふわふわとした布団の感触に目を丸くし、そっと顔を埋めた。その瞬間、「あったかい……!」という小さな声が、まるで雪解け水のように、あちこちから聞こえてきた。ある老人は、布団に潜り込み、震える肩を抱えながら、静かに涙を流していた。「これじゃ……まるで、春が来たようだ」と、その震える声が、馬超の胸に深く響いた。
そして、都の広場では、関羽が民衆にプロテインの飲み方を実演していた。
「いいか、皆の者。この粉は、武人だけのものではない。これを飲めば、畑仕事の疲れも翌日に残らん」
関羽は、片手にプロテインの入った杯を持ち、もう一方の手で、自身の立派な髭を優雅になでつけた。その威風堂々とした姿に、最初は遠巻きに見ていた民衆も、やがて興味津々に近づいてきた。
「関羽様、どうしたらそんなに立派な髭が……」
一人の女性が、恐る恐る質問をすると、関羽は「うむ、日々の鍛錬と栄養の賜物だ」と答え、優しく微笑んだ。その日を境に、関羽は民衆から「関羽先生!」と呼ばれるようになり、彼のもとには健康相談に訪れる人々が後を絶たなくなった。
「あなたの知恵がもたらした、美と温かさと食という、三つの力が、この国の新しい秩序を作り出すでしょう」
孔明の言葉に、私は、平和な勝利への道が見えてきたことに、安堵の表情を浮かべた。内政改革は、平和な世界の到来への、確かな一歩なのだ。私は、そう自分に言い聞かせた。それは、私自身の罪悪感を打ち消し、この勝利に「意味」を与えるための、私にとっての「必然性」だった。
夕焼けに染まる空は、まるで、平和な未来を象徴しているかのようだった。その光は、私の心を照らし、前に進む勇気をくれた。
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