宙のむじな

天雨虹汰

1話目

地球は生きていた!C国に突如現れた半径2km、深さ不明の大きな穴は、各国の指導者の元へとある言葉を送った。「私は地球である。近年人類の活動により私は栄養失調に陥ってしまった。私を生き長らえさせる為に鉄を送って貰う。送った者の願いを叶えよう。」と。真っ先に動いたのはC国であった。穴は自国の所有物だと主張、有り余る人口を動員し鉱山や地面を開発した。そうして集めた鉄を穴へと流し込んだ。しかし、地球に地球を喰わせる、いわば自傷行為をさせたとして地球の怒りを買った結果、全てのC国民、C国領土の建造物が跡形もなく消えてしまった。田畑は草原へ、コンクリートジャングルはジャングルへと還った。車は岩石に、プラは微生物へと変わり、C国領土はあっという間に幻の桃源郷へと変貌した。


先の件を知った列強国は自身の野望を叶えるため試行錯誤した。そんな中A国は隕石に目をつけた。始まりはある学生の発言だった。その一言が熱を帯び、結果A国は外部の鉄である隕石を呼び寄せる装置を開発することに成功した。早速A国は例の装置を使い隕石を呼び寄せた。目標地点を穴へ設定し、大小3つの隕石を穴へ直に落とす……地球の怒りを買ってしまった!隕石は鉄以外の不純物を取り除いた純度99%純鉄でないといけなかったのだ。ペナルティとして例の装置の設計図データを何者かにより世界へ広められてしまった。いち早く情報をつかみ、十分な資源、土地、人民の在るB国、D国は早速装置を製造しようとした。だが事態に焦るA国は装置を、隕石の目標地点をD国へと設定した。ここからかの有名な流星戦争が始まったわけである。例の装置を大量生産したB国、D国は自らの願いを叶えるために、A国へ報復するため大量の隕石をA国領土へ落とし、A国も負けずと隕石を送り返した。核爆弾は使用者が分かるが、隕石は自然現象と言い張れる、そんな合理的な理由でこの戦争は急拡大してしまった。今や核爆弾は隕石を防ぐ防御兵器としてしか使われていない。誰にこんな事が予想出来たろうか……


こんな実質的な戦争を続けていれば地球環境は悪くなるに決まっていた。核により空気は淀み海は汚染され、大地には隕石による大量のクレーターが痘痕のように蔓延した。小国は隕石と核による汚染で世紀末状態となった。大国さえも経済力は半分程まで落ちてしまい、地球全体の治安が悪化した。地球を見限った各国の富裕層は急いで火星のテラフォーミングを始めた。彼らはたった15年で惑星の半分を移住可能地へ変え、移住を開始した。今現在火星への移住希望が殺到しているが、火星の土地は全て買われ値段を釣り上げられてしまっている。そのことに気づかず移住希望を出す輩もいるらしいが。



この手記を書いている私はA国宇宙開発局月地開拓部に属している一般局員である。これから月をテラフォームする為の調査、又月から穴を観察するため月面へと向かっている。優秀なエンジニア達は皆富豪へ着いて行った。そのせいで今私はたった1人のチームリーダーである。今この手記も船内で書いている。前項は私自身が世界情勢を改めて理解するために書いただけなので無視してくれて構わない。それも書ききってしまったので月に近づいた時、また手記を書く。


もう少しで月に到着する。少し前までこれは決して名誉的なものではなかった。だが戦争のお陰でどこの国も15年は訪れずにいたから、今では少し名誉的だ。



月に着いた。まず驚いたのは着陸する時、ロケットが地面から10cm程宙に浮いたのだ。着陸ができなかった。恐る恐る船から降りると私もロケットと同様に浮いた。まるで透明な地面が広がっているようだった。私は船を降り宙を歩いた。するとなにか透明な物体に触れた。私は困惑した。困惑していると、暗い宙に謎の衛星が浮いた。それが出てきてから10秒ほどすると、目前にビル群が映った。全ての建物が月面色で、窓がない点以外は地球のビル群さながらだった。そしてふと下を見れば足元には地面が現れていた。私が不安と恐怖に渦巻かれていると、「地球の方ですか?」独り身の私は直ぐ振り返った。私の目に映った彼は紫色の人型ネズミの姿をしていた。月人とのファーストコンタクトだった。


「地球の方ですよね」

「まさか」

「兎に角ゆっくりしましょう。家へ案内します。」

驚愕の隙すら与えられなかった。

私は彼の反重力船に乗せられる中、このまま死ぬのでは無いかとも感じた。しかし必ず生きて情報を地球へ持ち帰ってやるという、脅威のジャーナリズム精神が働き気づけば彼への質問を考えていた。


あるビルに到着し、私はそこの1階に案内された。内装も少ない灰色の近未来的空間に鎮座する長椅子に座ると、彼は珈琲を出してくれた。美味しかった。彼は地球人の味覚も理解しているらしい。

「改めて、我々の為に隕石……鉄を送って下さりありがとうございます。鉄は月の開発で近年不足していたのです。ですがあなた方のお陰で月はここまで発展出来ました。」

「え?」

質問が飛んだ。長い沈黙の後、言った

「なら人類の為にと頑張った今までは……」

「それに関しては申し訳ないと思っています。あと、願いを叶える云々も嘘でした。申し訳ありません。」

私はフリーズした頭を叩き起す。

「そもそも、どうやって地球から月に隕石をおくるんだ」

「穴に落ちた鉄は地球に住む仲間が回収し、強化プラスチック容器に入れ海底から水圧によって発射。それを回収していました。」


ショックを抑えつつ、こうなればと彼に質問攻めをすることにした。

「質問してもいいか」

「はい、どうぞ。」

「ここの地面はどうなっている。すべて宙に浮いていたぞ」

「隕石落下の地鳴りから星を守るために、ここが低重力なことを活かして下から隕石の爆風を地下に貯め、少しづつ地上へ送り浮かせています。」

「あの衛星は?なぜ見えなかった?」

「私達は人類の目には見えないのです。なのであの衛星で赤外線を出し、我々の建物や身体で可視光線にして反射しています。来客用ですね」

人類文明は井の中の蛙だと知れた。

私が次の質問をしようとした時、被せるように彼が言った。

「ところで気になったのですが、何故地球の資源を使わず隕石を使ったのですか?」

「……地球資源を送ると怒ったじゃないか、C国はそれで潰したんだろう?」

「我々は最初のメッセージ以外コンタクトはとっていませんよ」

私は一連の流れを彼に話した。そして再度質問をする。

「ならペナルティは地球がやっていたとでも?」

「一定の星には自我があります」遮るように言った。

「地球には自我があったのです。主食のエネルギー、原油を摂取するために草木を芽吹かせ、川を作り生態系を作ったのです。ですが人類は想像以上に増え想像以上に生態系を破壊した。更にc国は我々のメッセージのせいですが酷い環境破壊を行い、それに地球は怒ったのだと思います。で、2度目は我々が行った事です。」

「星が意志を……」

「隕石誘導装置には正直驚きました。そこで人類の叡智をもっと活用してもらおうと、地球在住の月人に頼んで世界中に拡散してもらいました。別に隕石のまま落としてもらっても良かったんです。地球が怒った訳ではないのですが、想像力が仇になりましたね。」

完全に質問は飛んだ。もう話すことが無くなった私は、最後に今回の計画の事を彼に話した。

「申し訳ありませんが月には来ないで頂きたい。もう先客が居るのですから。」

計画はあっさり断られた。私の憶測だが、饒舌な彼らは恐らく元より月に住んでいた訳ではなさそうだ。そんな彼らに戦争を仕掛けても勝ち目はないだろう。最後に私は聞いた。

「このまま地球人が減って人類が居なくなった時、どうするんだ」

「地球の土地はもう既に資本家が購入しています。人類が我々に対して生産をやめた時、彼らは何をするのか分かりませんよ。」

人類は地球と運命を共にする。それが最善策だと気づいた。

「……兎に角、地球は生きていたんです。帰ったら自らを省み、もう一度生態系と向き合うことです。」

この説法を最後に、私は失意の中月を去ることにした。建物の外には月人が沢山いた。彼らは地球の有様など関係ないように、遊び、はしゃぎ、異星人から見ても幸せそうだった。


今私は星へ帰還する宇宙船の、小さな窓から月を眺めている。衛星からはもう、赤外線は出ていない。

何も無い大地に、表側に、深さの分からない大きな穴が見えた。

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宙のむじな 天雨虹汰 @shigakota

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