超人な君の相棒でありたい。

常磐 優希

邂逅.

プロローグ 《雪代》

 コトッと、雪のように白い丸テーブルに置かれたのは暖かなココアが注がれたマグカップ。

 部屋は全体的に白を基調としていて緊張もあり居心地が悪かった。

「じゃあ、話してくれるかな」

 同じくマグカップを置き自分の部屋だからと男が目の前に居るのに目のやり場に困る部屋着で座るのはこの家の主。

「……男が部屋に居るのに、変に露出が多いな」

 緊張を和らげる為にと俺はココアを飲みながら家主に不満を漏らしながら言う。

「そんなジト目で言われると自分の身体に自信を持てなくなるですけどー」

 相手は目をつぶりながら自分のマグカップを手に持ち口に運び、少し顔をしかめながら言う。

「コーヒー、飲めないならカッコつけるな」

「失礼な事を言うね、まあ飲みなれてないのは事実だけど」

「やけに素直だな、こういう時意地を張ったりするもんだと思ってたよ」

「意地を張ってたって仕方ないでしょ? ほら、そんなこと言ってないで……」

 家主はコーヒーの入ったマグカップを丸テーブルに置き一段と真面目な顔で見つめた。

「君があのデパートで見たことを教えて欲しい。施設で話した通りこれはきみ……雪代ゆきしろ水月みつきにとって悪い話じゃないんだから」

「……家族を殺した犯人を捕まえれる。お前はそう言ってたな」

「お前じゃなくて彩葉いろはって呼んで欲しい」と。彼女は言う。

「……はあ、分かったよ。それに別に話すことはいいがそれが彩葉にどうメリットがある」

 その回答によっては、俺は嘘を付く気でいる。なにせ、彩葉にとってそれを知るメリットは無くて、それは俺が話すメリットも無いって事だ。嘘を付いていそうと判断したら俺も嘘を付いてやる。

「そうだね、私にとってそれを知るメリットは犯人の足取りが掴める」

「……そうだな、そうだよな」

何を今更な質問だろうか。彩葉はこの事件の犯人を追っている。俺をこの事件に追わせるよう誘導する時だって犯人を捕まえることを言っていた。

「彩葉は、犯人に何をされたんだ……」

 零れた言葉は当然本心から出てくる本音。

「さあね、私にも分からないよ。もしかしたら人体実験でもされたかもしれないね」

「ははっ、そんな事があるわけないだろ」

「ふふっ、君にとってはね」

「そうだな……分かった。話してやるよ。俺が見たあのデパートでの事件の話を」






 今から少し昔。と言っても三年前に起こった事だけれども。

 世間に出回っている事件としては銃器を持った不審人物がデパートを占拠。被害者を出し犯人は自殺を図り悲惨な終わり方をした。そう言われてる。というより報道されてるけれども実際は違う。

 俺はその時家族とデパートに行っていた。家族団欒とした休日で……でも、俺はその時反抗期で家族とは別行動でデパートを回って過ごしていた。

 今思えばもう少し家族と一緒に回っていればなんて考えたけれども、それをすれば俺も家族と一緒に……死んでいかもしれない。

 少し休憩しようと反対側に行くための通路で一階にある噴水を眺めていると噴水の水になにか黒いモノが反射して映っていた。

 それがなんなのかって思って顔を上げた瞬間。その噴水に反射していたモノは紫色に発光した。今思えばそれは赤色と青色、他にも黄色も混ざっていたようにも感じるが。その異様な光景に幼いながらにここに居ちゃダメだって気持ちに駆り立てられて家族を探した。

 探して何分か経ってすぐに家族は会えた。でも、それは俺が声をかけても抱き締めには来なかった。

 そこからはあんまり憶えてはいない。ただ、なにか大きなモノに狙われた気がして、それを……誰かに助けられた気がする。

 デパートから解放されて俺は警察の紹介の元、孤児院で三年間生活して彩葉に引き取られた。






「これが、俺が話せる全てだ」

 俺はマグカップに入れられたココアを全て飲み干し終わったあと俺が体験した事件についても話終える。今思い出しても今さっき飲んでいたものが口から流れそうで気分が悪い。

「ごめんね、辛い記憶を思い出させちゃって」

「いや、いいんだ……それにだいぶマシにはなったらしい」

「いわゆる、心的外傷後ストレス障害」

「ああ、そこまで酷い訳でもないんだがいまだに眠りが浅くてな……」

「……そっか」

 彩葉の顔は先程の話を聞き少しくらい表情を見せた。

「ま、なっちまった事には変わりないんだ。睡眠障害たったそれだけの話だ。彩葉が気にかけることじゃない」

 逆にその反応をされる方が少し申し訳立たなくなる。

「……そう、水月は優しいんだね」

「優しい? 俺のどこが……」

「水月は私に心配を掛けないようにってずっと隠してた。耐えられない時はココアを飲んで心を落ち着かせようと」

「まさか、ただ話しすぎて喉が渇いただけだ」

「ふふ、そうやって誤魔化そうとするし」

 すると彩葉は立ち上がり俺の隣に座ったと思えば俺を抱きしめてきた。

「……だいじょうぶ、大丈夫だよ私はきみの傍に居るから、絶対独りにはしない」

「……そう、かよ」

 すると、彩葉は何かを思い付いたかのように顔を上げた。

「そうだ、これからは私と一緒に寝よっか。その方がよく眠れるかもね」

「……遠慮しとく」

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