国絆歌思

第1章 日本との出会い

午後の街角は、光と影の柔らかい競演に包まれていた。石畳の道は長年の雨風に磨かれ、淡い黄土色に輝く。絆川はゆっくりと十六夜の手を握り、互いの温もりを確かめ合うように歩く。十六夜は少し緊張した表情を見せ、周囲の建物や通行人の足音に目を走らせる。しかし絆川の背中を見て、自然と呼吸が落ち着くのを感じた。

「ここなら、しばらく落ち着けそうだな……」絆川の声は柔らかく、午後の光に溶けるように響いた。十六夜は小さく頷き、指先に伝わる握り方の優しさに安心感を覚えた。

しばらく歩いた先に、一人の青年が姿を現す。細身で整った容姿、落ち着いた瞳はどこか懐かしさを呼び覚ますようだった。彼は軽く微笑み、ゆっくりと近づいてくる。

「絆川さん、お久しぶりです。……お元気でしたか?」

絆川は自然に笑みを返し、肩の力がほぐれる。「ああ、本当に久しぶりだな……。元気にやっていたよ」

十六夜は少しだけ顔を上げ、青年の落ち着いた雰囲気に心を引かれる。青年は一瞬視線を十六夜に移し、軽く頭を下げる。

「よろしければ、少し休んでいきませんか?私の家で」

絆川は小さく頷き、言葉少なにうなずく。十六夜も緊張を少しだけ解き、二人は青年に導かれるまま静かな路地を進む。

道の両側には、古い木造の家々が並び、窓からは柔らかな光が漏れている。遠くで子供の笑い声や犬の鳴き声が聞こえるが、街全体は穏やかで落ち着いた空気に満ちていた。絆川は十六夜の手をぎゅっと握り、彼女の不安を軽く撫でるように感じながら歩く。

「十六夜、無理に急ぐことはない。ゆっくりでいい」

「うん……わかった」

小さな声のやり取りが、二人の間に静かな信頼の橋をかける。


第2章 日本の家へ

青年の家は、路地を抜けた先にひっそりと佇んでいた。木製の門を開けると、柔らかな風が玄関に吹き込み、木の香りが鼻腔をくすぐる。中に入ると、木目の温もりを活かした内装が目に映った。壁には小さな絵画や写真立て、観葉植物が置かれ、落ち着いた生活の気配が漂っている。

「ここで少し休んでください」

青年――日本は、静かで落ち着いた声で告げる。十六夜は絆川の隣に座り、少し肩の力を抜く。

「……なんだか、ほっとするね」

絆川は肩に手を置き、優しく言葉を添えた。「ゆっくりでいい。焦らなくても大丈夫だ」

窓から差し込む光が室内の家具や床に柔らかな影を落とし、時間がゆっくりと流れるように感じられる。十六夜は少しずつ緊張を解き、絆川の存在に安堵を覚えた。

「十六夜さん、ここは静かで落ち着くでしょう?無理に話さなくてもいいんですよ」

「うん……ありがとう」

二人の間には、言葉以上の理解が生まれていた。


第3章 七歌の到着

やがて、もう一人の仲間、七歌が到着する。玄関の扉が静かに開き、礼儀正しく頭を下げながら部屋に入ってくる。絆川は立ち上がり、手を振って迎える。

「お邪魔します」

「七歌さん、こちらへどうぞ」

日本は軽く手を挙げ、微笑みながら案内する。七歌も自然に笑みを返し、部屋の中央へ歩を進めた。

三人が揃った部屋は、外の喧騒とは無縁の静寂に包まれる。窓の外には街のざわめきが微かに聞こえるが、室内の温もりと光が、その音を柔らかく吸収してしまう。絆川は椅子に腰を下ろし、十六夜に微笑みかける。

「今日は、こうして皆で集まれるだけで十分だ」

「そうですね……久しぶりに、安心できる気がします」

十六夜の声は小さく、しかし確かに落ち着きが感じられる。七歌も穏やかな表情で二人を見つめ、静かな時間を共有する。


第4章 穏やかなひととき

四人は簡単な食事を囲み、食器の音や小さな笑い声が室内に柔らかく響く。日本は静かで丁寧な口調で話しかけ、十六夜の心に安心を与える。

「十六夜さん、少しずつでも思い出せるといいですね」

十六夜は顔を赤らめ、恥ずかしそうに目を伏せる。絆川は肩に手を置き、そっと励ます。

「焦らなくていい、ゆっくりでいいんだ。君のペースで進もう」

その時、アメリカ、ドイツ、イタリアが戻ってきて、十六夜にちょっかいをかける。

「おい、遊ぼうぜ!」

絆川は眉をひそめ、低く厳しい声で注意する。「いい加減にしろ、十六夜を困らせるんじゃない!」

三人は驚き、少し笑いながら後ずさる。

日本は絆川に礼を返すように微笑む。「ありがとうございます……」

絆川は軽く頷き、肩の力をさらに緩める。室内は再び、温かい空気に満たされる。


第5章 夜の静寂

夕暮れが差し込む家の中、四人はそれぞれの席に腰を下ろし、静かな時間を過ごす。窓の外には街の静けさが広がり、遠くで車のライトが揺れる。

絆川は静かに窓の外を見つめ、思いを巡らせる。「この子を守るのは、俺の役目だ」

十六夜は小さく頷き、安堵の表情を浮かべる。七歌も隣に座り、優しく微笑む。日本は手を軽く振り、安心した様子で二人を見守る。

外の世界には戦いの影が残っているものの、室内に漂う平穏は、その緊張を和らげる。四人の間に育まれた信頼と絆は、言葉にしなくとも互いに伝わり、夜の静寂に溶け込んでいった。

物語はまだ始まったばかりであり、この穏やかなひとときの先に、新たな試練と出会いが待っていることを、誰もが感じていた。

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