中編 偽神来参
村に来て二日目、前日の疲れもあってか昼ごろまで寝てしまう。特にやることもないので別にいいのだがせっかく来たのに部屋に篭りきりではつまらないと思い村を見学しようと外に出ていった。初日も軽い散歩はしたが改めてよく見てみると山間に綺麗な川が流れていたり田んぼが数えきれないほど並びトンボがその上を飛ぶような素晴らしい風景が広がっている。前日に見た扉で行われていたことなどすっかり忘れて自然を堪能していると思いの外歩きすぎてしまいかなり遠くまで来てしまっていた。これ以上行くと帰るのが困難になってしまうと思ってきた道を引き返すことにした。帰り際日も落ち始めてしまい辺りは暗くなってきていた。宿の近くまで来て安心していると宿から少しいったところに灯りが見えた。このまま宿に戻ってしまうかとも思ったがふと昨日のことが頭をよぎって灯りの元に行くことにした。近くまで来てみるとその明かりは松明であることがわかった。全員で6人、前後を囲むようにして真ん中の二人の周りに松明を持つ四人の人が立っている。物々しい雰囲気でこれ以上踏み込んではいけない気がしたが好奇心には勝てずにその後をついていってしまった。数分歩き続けると辿り着いた先はずっと気になっていた扉の前であった。前の二人が扉の錠を外し大きな扉がゆっくりと開かれていきその中に真ん中で囲まれていた二人が入っていく。その光景を見た自分の中にはもうすでに踏み止まるための理性は無くなっていた。中に入っていった二人が戻ってくる時のためなのか扉は開いておりタイミングよく外で待つ四人が目を離した隙に自分も扉の中に入り込んだ。中は入ってすぐ階段になっておりかなり長い間そこを下っていくと途中で上の方から扉の閉まる音がした。帰れなくなったことよりもこの先に何があるのかが気になって速度を上げて階段を駆け降りていく。先に入ったはずの二人には会うことはなく階段が終わるとそこは途轍もなく広い空間で手前にバカでかい鳥居を持つ社が立っていた。あまりの光景に呆然としていると足音が聞こえて咄嗟に物陰に隠れた。隠れたところからこっそりと覗いていると鳥居の前に人が二人現れた。すぐに先ほどの二人だと分かったが近くで見ると着物のような動きにくそうな格好をしている。色々な疑問に頭を回らせているその時、突然二人が舞い始めた。踊りのことは詳しく分からないが本能的に神聖な儀式であることを感じてただ黙って身じろぎひとつせずその舞に見入っていた。その舞は数十分とも数時間とも取れるような不思議な時間感覚の中続いていきある時突然終わった。すごいものを見てしまったと思いながら何か記録できるものと考え持っていたスマートフォンを二人と鳥居に向け構えた時、社の奥の暗がりに違和感を感じてその瞬間、時が止まる。全貌は分からないが暗がりの奥になにかいる。輪郭をはっきりさせたくないと思いながらも目のピントが徐々に合っていく。怪物だった。顔の形は狐のようだが丸く大きな目は黒く染まっていて口は顔の側面まで裂けている。口元は口紅のようなものが塗られているかのように赤く、開けた口から鋭い歯が覗き込んでいる。
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