風鈴の聞こえる夢
青馬 達未
第1話
「……久しぶりだね」
喉の奥が乾き、声は風にさらわれるようにかすれていった。
彼女は、うっすらと眉をひそめる。
「今のあなたとは、会いたくなかったわ」
その言葉は、冬の風のように冷たかった。
胸の奥で何かが小さく軋んだ。
ずっと会いたかったはずなのに、心のどこかで恐れていた。
再会の瞬間が、喜びではなく罰になることを。
「早く、私の前から消えて」
吐息が白く広がって、夜の闇に溶けていった。
「ごめん」
僕は情けなく、謝ることしかできなかった。
「謝らないでよ」
「ご、ごめん」
「だから……謝らないで」
二人の間に沈黙が降りた。
風に鳴る音が、やけに大きく響く。
気づけば、二人とも泣いていた。涙は冷えた空気に触れ、すぐに頬を冷やす。
僕は手を伸ばした。彼女に触れたかった。
指先が彼女の影に触れようとした瞬間――
「これは、夢だから」
彼女の声は、静かだった。
「……嫌だ」
「私は幻なの」
「嘘だ。たしかに、ここにいるじゃないか」
「幻なの。だから、触れることはできないの」
「幻でもいい」
「そしたら、消えてしまうだけだよ」
「今度会うときは……幻じゃないことを願ってる」
その瞬間、風が吹き抜けた。彼女の輪郭が淡くにじむ。
――「目を覚ましたのね」
目を開けると、真っ白な天井があった。
どうやら病室で寝てたようだ。
「お母さん……」
「さっき、ミユに会ってきたんだ」
「きっと、怒ってたでしょう」
「うん……怒ってた」
「もう馬鹿なことはしないで。ミユちゃんも、私も、悲しむのよ」
「……ごめん」
その言葉は、まだ夢の中の彼女に向けて、心の奥底で繰り返されていた。
風鈴の聞こえる夢 青馬 達未 @TatsuB
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