香る音
もふもふ
第1話
先日もらったパイナップルと猫じゃらしのお題で
「香る音」
もふ山もふの進
暗い通路を歩く男
こつ、こつ、と足音だけが響く
その歩みはひどくゆっくりで、呼吸を殺し、周囲を警戒しているようだ
かさ、と何かが動く音がして
咄嗟に身構える
虫か
息を吐き、また歩みだす
ひたすら足を進めると、ふと光が見えた
目を細めながら、ゆっくりと近づいていく
広い空間に出る
辿り着いたのは、闘技場
暴力を持つ歓声、殺意を持つ怒号、足を踏み入れた瞬間に音の洗礼を受ける
リングにはすでに先客
大きなパイナップルが腕を組んでいた
最近噂になっている、パイナップル星人の話を聞いたことがある
肉を柔らかくする酵素を全身から垂れ流し、対戦相手を脱力させて勝利するという卑怯極まりないゲス野郎らしい
なおかつフルーティーな香りを会場に届けるというオトナの気配りも忘れない
ご丁寧に両耳からは猫じゃらしが生えている
両耳の猫じゃらしめがけて会場にいたネコちゃんたちが群がってくる
ネコちゃんがいると迂闊な攻撃も出来ない
鉄壁の守りというわけか
一筋縄ではいかない相手を目にして男の筋肉は収縮し、肌の感覚を鋭敏にさせた
ゴングが鳴り、パイナップルがゆっくりと近付いてくる
構えながら迎え撃つ
そして激しい攻防の末にパイナップルに組み敷かれ、全身に酵素を浴びてしまった男は力が入らなくなり、体も心も柔らかくなっていく
先程までの闘志は消え失せ、嘘のように穏やかな気持ちだ
これが……恋!?
薄れゆく意識の中、爽やかな香りを感じながら試合終了のゴングが聞こえる
後で、パイナップルに交際を申し込もう
そう思いながら、意識に緞帳(どんちょう)が下ろされていった
香る音 もふもふ @mohumohuuuu
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