「かぼちゃ」の演説

本歌取安

第1話 立候補者の決戦

2XXX年10月下旬 フラワー連邦共和国 ネオグラッドストン州

上院議員選挙討論会会場。


最後の立候補者討論会からか、会場には州民たちの熱気が漂っている。


壇上のデモス党立候補者ポーラ・バーグの演説も一際熱が籠り、「多様性」政策のさらなる推進と移民の門戸開放を強く訴えていた。


「次の登壇者は、フラワー党のデネブ・フォスター候補です!」


呼び出しに応じて立ち上がったデネブは、直前に壇上から降りた候補に笑顔で手を差し出した。


「素晴らしい演説でした。幸運を」


デモス党の立候補者ポーラ・バーグは、少し驚いたように彼女の手を握り返した。

デネブはそのまま壇上へと歩を進め、演壇に立った。


視線をゆっくりと会場に巡らせる。

落ち着いた所作、どこか古風な雰囲気をまとった立ち振る舞い。

静まり返った空気の中、彼女は口を開いた。


「……皆さん。我々は今、重大な岐路に立っています」


間を取る。

会場の空気がわずかに引き締まった。


「「多様性」の推進は伝統的な価値観を大切にする皆さんの声を押し潰している。移民の奔流は、秩序ある暮らしを壊しつつある――」


言葉を区切るごとに、一部の聴衆が頷いた。


彼女は続けた。


「だが、私は信じています。祖国には再び、偉大さを取り戻す力がある。……それを信じ、私は立候補したのです!」


一瞬の沈黙の後、会場が沸き上がった。拍手、歓声、そして「デネブ!」と名前を叫ぶ声まで飛ぶ。


──成功した。


手応えを感じながら、彼女はゆっくりと壇を降りた。


このとき、まだ彼女は知らなかった。これが、すべての始まりにすぎなかったことを。

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