元最強神・善なる素行

「……きらきらしてる」

 クラトスに礼の一つだと言われ、昼食をご馳走される。とは言え、外食などではなく本人が作った家庭料理だ。無言で食べるアレスと、食事をしない幼女はいつも通り魔法紙に文字を書いている。


「せっかく王都に来たんだし、一週間くらい滞在していったらどうだ? 助けてもらったお礼に金の工面ならしてやれるし」


 さすが、国王から与えられたマイスターの称号を持つだけあって、礼節を重んじているらしい。アレスの態度で猫を被るのをやめたクラトスは素を見せていた。実は、このまま旅に同行したいと言っていたが、山のような仕事の発注で断念する。

 元々来る者拒まずなところもあるアレスは、どちらでも構わなかったため返事すらしなかった。


 王都の観光と聞いて窓から覗く街並みを眺める。今まで見てきた町より当然活気もあり、幸せそうな顔をした街人ばかりだ。一つ気になる点と言うのなら、野盗を引き取りにきた騎士団の存在である。犯罪者を収容する場所は他にもあるだろうが、処罰するのなら王宮しかない。


「……貴様に聞きたいことがあった。野盗を引き取りに来た騎士団は、通常どこにいる」

「え? あー……あのときの。騎士団って呼ばれてるのは王国専属しかいないだろうから、普段は王宮かな。外からなら見えると思うよ」


 夢中で勉強に励む幼女を放置して、二人で外へ出る。クラトスが指差す方向には、大きな城が見えた。青い屋根の部分が一部尖った塔のような建物と、屋根以外すべて白い巨大な施設で繋がっている。

 青い屋根に白い壁は王都と同じだった。


「あそこにいて、野盗とか、危険人物を取り押さえたりしたときに、他の町へ来たりするかな」


 基本的に小さい案件では動かないらしく、人的被害や、国の存亡に関わる物事で動くらしい。国王絶対主義であり、一部の者は命を捧げるほど崇拝しているとか。


 難しい説明をしようとするクラトスの口を塞ぎ、再び家の中に戻る。関わり合いにならないだけでいい存在だと認識して、王都に来た目的を考えた。


 一つはクラトスに会って呪いについて詳細を聞き、可能なら解呪してもらう予定だったが、父神の与えた試練だけあって簡単なはずもなく不発。そして代わりに長旅の続行が確定した。普段あまり表情を変えないアレスが、ハッと目を見開いて革袋から一冊の本を取り出す。

 『初心者向け野宿』の愛読書だった。


 ポカンと口を開けるクラトスに詰め寄ったアレスは、普段より低い声で凄む。


「――これの最新版はどこにある」


 第二の目的が決まると、幼女を連れ立って雑貨屋に向かった。基本的に本屋という店はないらしく、殆どが雑貨扱いだと言う。そして、王都で一番大きな雑貨屋ならあるだろうと教えられ、ついでに宿屋の紹介状まで書いてもらった。


 雑貨屋までの道のりも、幸せを振りまく人間しかおらず、たまに亜人種の姿が目に留まる。奴隷扱いされているわけでもなく、笑顔だった。


 要塞の所業について、国王は知っているのだろうかと疑問に思う。亜人種以外の人間は往来出来ているが、町中で一切話を聞かない。忘れていたことを思い出しながら、雑貨屋の扉についた呼び鈴を鳴らして中へ入る。


 全面窓ガラスからでも分かっていた内装は、薄いピンク色に高い天井を飾る大きな魔導灯が華やかさを演出していた。

 淡い黄昏たそがれ色の光が降り注ぐ店内には、四組ほどの客もいる。賑わう店内に走り出そうとする幼女の襟首を後ろから掴みながら物色していた。


「あ、いらっしゃいませ! 当店は初めてですか?」

「……【初心者向け野宿】の最新版はあるか?」

「へ……? あ、本ですね! それでしたら、奥にあります。ご案内しますね」


 店員がたじろぐのも当然で、貴族のような服装に顔が良い男の買い求める物じゃない。

 訳アリ貴族と勘違いされたアレスは、案内された場所で二段になっている棚を眺める。


 探し求めていた本はすぐに見つかると、ペラペラとめくって中身を確認した。数秒手を止めたあと、小さく息を吐く。アレスなりの歓喜に満ちた表情で、他の本も物色していった。魔法のくらいについて、世界の歴史や、魔物事典など。


 放置された幼女も近くの本棚から一冊の本を取り出す。瑠璃色の表紙に三角帽子を被った少女の絵が描かれていた。見た目からして童話だろう本を開くと、魔法について書かれている。


『精霊様の贈り物。選ばれた者だけが扱える魔法の存在。魔法録は色んな形をしている。探し出せる者は、すでに選ばれている。触れたら消える儚い魔法の記録。一つ以上持つ存在はない――』


 開いた瞬間、本が勝手に語り出し幼女は目を丸くする。その声は辛うじてアレスの耳にも届いたが、気にせず本を読み漁っていた。


 パタンと閉じて本棚に戻すと、夢中で立ち読みしているアレスのズボンが引っ張られる。

 幼女だからと甘く見ていると痛い目を見る力の強さで、眉を寄せるアレスは下を向いた。幼女は魔法紙に書いた文字を見せる。


「……子供向けの本が読みたい?」


 明らかに面倒くさそうな顔をしながらも店員を呼び止めて、子供向けの本を一冊受け取った。幼女に持たせると、すぐにページを開く。先ほどの本とは違って、難しい文字は少なくて読みやすい。内容は『王子様とお姫様』だった。

 目を輝かせる幼女にため息を吐きながら、本以外は見ることなく三冊を購入して店を出る。


 アレスが購入した本は、愛読している『初心者向け野宿Ⅱ』に『』と言う意味深な本だった。

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