輝ける未来を――
電子サキュバスショコラ・ケオスリャー
キメラの咆哮と白髪の女神
「止まってくださーい!」
通り過ぎる馬車を見つけて、思わず声をかけた。
人を見つけた喜び。声が自然と漏れたのは、早くまともな食べ物にありつきたい一心からだった。
行き先もなくずっと歩き続けていたせいで、足はくたくただ。できれば誰かに出会いたい……そんな願いを込めてのチャンスだった。
ここ数日食べたのは、キノコに木の実、草ばかり。
動物はいても、命を奪う覚悟がまだ足りず、どうしても手を出せなかった。
血が、もう無理だった。気が遠くなりそうで……わかる?体の中から何かが抜けていくような錯覚があるの。
『フアーっ』と息を吐いた後、胸がドゥンッ、ドゥンッと強く鼓動して、意識が飛んで楽になるかと思いきや、ギリギリ残った意識のまま、その不快な感覚が長く続く。そんな感じ。辛いよ~~~!
《あぁっ!肉を食べたい!まともなものが食べたい!》
頭の大部分を占める欲望の声が響き渡りそうだった。あの馬車は、その声が届いたから来てくれたに違いない。そうであってほしい、頼む!
目が覚めてからずっと何も思い出せないが、この生活がまともではないことだけはわかっている。
「お?おわーっ!」
馬車に追いつき、商人の手を掴む女性の必死さに、乗っている人たちは叫び散らした。
空腹に耐えかねて食べたキノコの多くは毒で、よく吐き、よく倒れた。
幸い命を落とすことはなかったけれど……いや、もしかすると死んでいたのかもしれない。正直、何度か心臓が止まった気がする。だが、自分が死んだことを証明できなければ、自覚もできなかった。ずっと一人だったから。
生物の本能とはすごいもので、記憶がなくても、木を見れば「これは食べられない」と察知できる程度の知能は働いた。石ころは「食べても意味がない」と理解して口に入れなかった。
でもさすがにもう限界だった。まともな食べ物を腹いっぱい食べたかった。
これが最後のチャンスだと思った。暴力はよくないと、凄みで止めた。そして乗っている人たちはそれを見て叫び散らしたわけだ。
「お、お嬢さん……こんなところで何してたんだ?人もいないような山道で……」
一緒に乗っている人が声をかけてきた。
商人は驚きのあまり胸に手を当てて落ち着こうとする一方、後ろに乗せてもらった女性、ミライはお茶を飲んでいた。
「ぷはーっ!生き返りましたぁ……!実はよくわからなくて……気づいたら山の中でしたので」
「はぁ……?放浪か、それとも捕まって逃げてきたのか?」
「いやぁ~それもわからなくてですね~」
「はぁ……まぁいいや、街に行くついでだし、それに今日はもう運搬の仕事もないしな」
「おじさん、ありがとー!あっはははは!」
初めて会った人は善良な人だった。同じく乗っている何人かも気さくで、何でも話せて何でも相談に乗ってくれた。
安堵した。人と触れ合うって楽しくて、暖かくて、興奮するものなんだと思った。
突然、「ガアア!」と吠える声が聞こえ、馬車が止まった。
「ヒヒィーン!」
馬の嘶きと同時に、それを操る商人の「クソ!こんな時に!」という声が響き、乗っている人たちがざわめいた。
ある者は武装し、ある者は頭を抱えて隅に丸くなった。
全員が同じタイプの人間ではなく、勇ましい者は元傭兵だと言っていた。
「我が魂に応え、刃に祝福を授けたまえ!エイドリッジ・アンフ!」
傭兵の構えた剣を囲うように、輪が灯り、爪を受け止めた。
私は馬車から覗くだけだった。脅威の存在に気づかず、能天気だった。
戦うことも知らず、そんなことを考えたことすらなかった。だって記憶もなく、森をさまよっていただけだから。
けれど、徐々に押されているのが見えた。傭兵は傷つき、何かの攻撃を受けていた。
吹き飛ばされて、ピクリとも動かない姿を見つめる。
爪が近づく。
巨躯から、傭兵の命が陰り始めているのが見えた。
凶悪無比なその爪が、傭兵に振り下ろされる――。
四足の獣。馬車よりも大きなその巨体は、分厚い毛皮と鋭い爪を備えていた。
顔はクマ、胴体はゴリラ。背中には刺さった剣や槍がある。
そのくせ、大蛇の尻尾まで持っている。いったい何をキメラっているのだろうか。
――――――――――――――――
ガン!!と音が轟く。
命を刈り取る凶刃を受け止めたのは、果たして誰だったのか。
青い瞳と白い髪を持つ、それはまさしく救いをもたらす女神だったと、商人は語った――。
「へぇ~、その勇者さんはいったい何者だったんすかねぇ~?」
男は商人の話を半分聞き流した。
酒場の話は誇張された真実が大事だ。その人の体験は盛られて興奮が最大限に伝えられる。
まあ、真実か嘘かは態度を見ればわかる。酒の席で嘘や大げさな話をするには、何かを恐れるような卑屈さが必要だ。
観察した限り、嘘や誇張話ではなさそうだが……いったいどういうことだろう。
クレナードの街からここ、ユーグリードまでの帰り道に、「人獣喰らいのグリードベア」というのがいる。
だが、どういうわけか、たった一人で討伐したという話を聞くとは。男は思ってもいなかった。
あんなもの、一人で倒せるもんじゃない。重装備を着た兵士が20人いても無理だったんだから。討伐に編成されたのは間違いだったと、そいつらの知り合いから聞いたのを覚えている。
あれを一人で討伐できる奴なんて、この国に誰もいないだろう。魔術師を加えても数日かけて弱らせて、やっと討伐できたという話があったくらいだ。
「そういえばあのお嬢さん、名前を聞きそびれちまった……この街に降ろしたはいいが、大丈夫だろうか」
「ああ?そういえば乗せたって言ってたっけか、記憶がないとか言う女」
「ああ、あの後、心ここにあらずって感じで降りてった切りでな、ちょっと心配で」
「探してほしいのか?いくらかもらうが」
「え、ああいや別にそういうわけじゃねえ。ま、仕事柄そういう気になる人はいるが、それとこれとは分けないとだろ」
「んま、気にする程度にはしておこうかね?もし見つけたら、な?」
指で輪を作って商人に見せると、彼は笑うでもなく睨むでもなく、男は片眉を吊り上げて言った。
――続く?
輝ける未来を―― 電子サキュバスショコラ・ケオスリャー @swll
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