大正の参考文献、何を読む?

狭倉朏

「異能夫婦の大正ご飯」

第1話 献立、ビフテキと鶏、つまり肉

 最近大正ものを書いていて、参考文献が増えてきたので、一箇所にまとめておこうと思います。まずは連載中の「異能夫婦の大正ご飯」を中心に。

 作品のネタバレがひょいひょい飛び出します。


 拙作「異能夫婦の大正ご飯」の6話~8話に、洋食ディナーを出しました。


「異能夫婦の大正ご飯」

https://kakuyomu.jp/works/16818622176362970626


 各料理の参考文献を載せていきます。


 まずは献立。洋食は食べられていたとして、どのような献立で饗されていたのか?

 当時の文献に当たるため、国立国会図書館のデジタルコレクションを利用します。

 多くの本が無料で閲覧できます。便利。


「料理手引草」(明31.6)

https://dl.ndl.go.jp/pid/849159/1/50


 明治31年に出た本ということは、もちろん大正時代にもまだまだ参考にしていた人はいたはず。

 この本、朝昼晩・三食の献立とさらに立食の献立まで載っています。

 さらに本邦料理の序盤と、西洋料理の序盤には調理器具も載っています。すでに完成形になっているもの、ここから進化したのだと感じるもの、まだ影も形もないものなどがあって興味深いです。

 特に今ならボウルと書かれているだろうところの多くが、鉢と書かれているところが面白かったですね。


 後ろの方にはレシピもしっかり載っています。サイトの目次はジャンプ用に使えるとして、どのようなレシピが載っているかは、書籍内の目次を見た方がより細かく料理名が載っています。

 6話はお祝いディナーということで、この献立の中から豪華そうなものを数品選んでいきます。


 戦前の洋食といえばひとまずビフテキ! ちょうど肉を食べるのがいい、というような話もしていますから最適です。

 ちょうど上の本でも朝の欄に載っていますね。朝から食べていたんですかね、ビフテキ。胃が元気。


 ところでビフテキってどういう料理? ビーフステーキ? 作り方は現代と同じでいいの?


 というわけで次に探すのはいわゆるレシピ本。


「洋食のおけいこ : 来客御馳走」(明45.1)

https://dl.ndl.go.jp/pid/849148/1/15

「実用西洋料理」(大正12)

https://dl.ndl.go.jp/pid/919485/1/42


 ひとまず二冊読んでみて、ざっくりと肉を叩いて焼いて味付けて食べるということがわかりました。だいたいビーフステーキ。たぶん。


 面白いのが明治45年の「洋食のおけいこ」では、使う油が「ラード」となっているのに対し、大正12年の「実用西洋料理」では、「ヘット叉は牛の生脂肪ナマアブラ」となっています。(※ヘットは牛脂)


 豚の脂から牛の脂へ。時代的なものなのか、単に流儀の違いなのか?

 興味深いです。

 風月家はお金を持っていそうなので、牛脂にしました。万が一典堂家で作るなら、ラードでしょうね。


 肉汁に塩を入れる。

 コショウで味付けする。

 と、味付けもそれぞれ違い、面白いです。ソースの話をしたかったので、本編では肉汁を採用しました。


【余談】

 1話では涼子が卵焼きを作っています。2,3話でも触れられていますね。

 この「長男(と家長)には卵を食べさせるけど、他の家族は……」という話は戦前生まれの祖父母から聞いたものです。

 昭和でもそういうことがあったのなら、大正時代に使っても良いだろうと判断。

 実際、鶏卵の値段は大正年間で二倍くらいに跳ね上がったそうです。贅沢品ですね。


 また、涼子がビフテキの際に、我が家で食べるなら豚肉とも言っていますね。

 この時代、出回ってる鶏肉は非常に高価か、鶏卵を生み終えた後のそこまで美味しくない鶏だったみたいです。


農林水産省「特集1 とり(1)」

https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/1612/spe1_01.html


 リンク先によれば牛肉より高かったとか。今後、ローストチキンとか出してみたいですね。(出しました)

 鶏肉の供給が安定するのは戦後ブロイラーが一般的になってから。意外な物が高級品だったりするんですね。


 次回は書ききれなかったスープとサラダの話になります。

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