健気なアイデンティティ
「独創性に現代アートのような風を持ち込んでもいいと思うか?」
父親は変な人だったので、いっつも慇懃にアホ餓鬼の俺へ創作に関する苦悩を話していた。
俺は特段父親のように創作への関心があったわけじゃなかったから共感できなくて、毎度曖昧に慰めて父の病的なまでの自己研鑽の錆を落としていた。
養ってもらわんと死ぬんだし。
「父さんのものは皆喜ぶさ」
だた、この日の肯定だけは、いまでも最悪だったと呪っている。
発起した父がバリバリと執筆したのはAAアスキーアートと「」台詞だけがのっかってる、小説とは言えない代物だった。
絵本と言った方が適当だろう。
内容も粗末だった、あんなもの雑誌に載せてはならなかった。
官能小説だったんだ。
勿論出版社には購読者による熱烈なクレームが相次いでしまう始末となった。
開拓するときの、父の眼で煌めいた焔を今でも鮮明に覚えている。
我を忘れていたんだろう、立場も見失っていたのだろう、視界が焼き尽くされたならば当然だ。
だけど、燃える父をだれも止められなかったんだ。
皆熱に歪んで狂っていた。
メディアになんて出していいものじゃなかったのに。
メディアになんて出していいものじゃなかったのに!
俺の人生も、出版社の未来も何もかも狂ってしまった!
熱が狂わしたんだ!
…どうしてあんな幼稚なものを日向に出せたのか。
珍紛漢紛な駄作を見るとふとそんな考えが過ってしまう。
おかしな話でしょう?
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