善人

山犬 柘ろ

1話完結



女は歳をとっていた。


女は小さな窓が一つとベランダのある薄暗い部屋に暮らしている。

訪ねてくる者はいない。


女は言う。



———わたしは何度も困ってる人に親切にしてきた

困ってたり可哀想な人がいると、つい助けたくなるんだよ


ほんとに、面倒な性格だろう?

つくづく自分が嫌になるよ

他人のことなんかほっときゃいいのに、つい可哀想になって優しくしちまうんだよ


寂しそうにしている人がいたら、かわいそうだから家に招待して、

ご飯も作ってあげたし、色々と気も使ってあげた



女友達がわたしの旦那を気に入ってると思ったから、

2人きりにしてなにかあっても知らない振りをしてあげたよ


後になってその事を女友達に言ったら何も言わなかった

人の旦那を借りておいて、ありがとうぐらい言えないのかと思ったけど、まあいいよ



人になにかしてもらったら、ちゃんとお金も渡した

誰かに借りを作るのは嫌だからね


寂しそうだからこっちが誘ってあげてるのに、しばらくしたらみんな誘いを断るんだよ


こんなに良くしてあげてるのに、断るなんて正気の沙汰じゃないね

どういう神経をしてるんだ



世の中は本当に、してもらうばかりで返すことも出来ない薄情な人間ばっかりだね———





女は今日も一人だ。


ベランダに置いてある、陽に焼けて劣化した椅子に腰掛け、外の世界を見ている。

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善人 山犬 柘ろ @karaco

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