第8話  女子高生のわたし、戦艦の艦長に… ⑧

さてと、後は…


わたしは戦闘中の孫麗玲さんの的確な指示を思い出す。

あの人が参謀?軍師的なモノになってくれたら、心強いとは、思うけど…


わたしの思考を察してかそうじゃないのか、孫麗玲さんがぬっと立ち上がり、フラフラっと医務室の外に出ていこうとする。


「用足しだ。いちいち見るな」


そう、突き放す様に言って外に出ていく。


「ドクター、あの人、孫麗玲さんに参謀みたいなのをお願いしたいと思うのですけど」


ドクターは冷めたお茶を飲み干して。


「ふむ。君は彼女の事を知らないのかね?」


えっ?有名人なの?


「はい、知らないです」


ドクターは少し考える素振りをしてからわたしに告げる。


「では、折角だから、アリス君が検索システムを使えるようにしてくれた様なので、先ずは君自身で調べてみなさい。そして、そこから何を感じてどう考えて彼女と接すべきか考えてみなさい」


そう言い、ドクターは立ち上がり、白衣を直す。

「アリス君。難民の方々を『ティルナノグ』とやらに連れていきたい、案内を頼めるかな。安心しなさい、エリィシア君。諸々の説明は私の方から上手くやっておく」


た、助かる…

さすが、ダンディ。言う事やる事スマートだわ。

確かに、わたしみたいな女子高生が説明しても何か、逆効果な気がするし。


こうして、ドクターも医務室を後にする。

後を追うようにヒメカも立ち上がる。


「どうしたの?」

「おかわり。今度はフィッシュバーガーにする」


え?

いつの間にあの量を食べたの?

って、おかわりって…

まぁ、良いか。この娘らしいし。


「うん、行ってらっしゃい」


こうして、わたしは一人医務室に残ることになりました。



さすが、一人は静かね。

さてと


わたしはスマホを起動させて早速『孫麗玲』と検索してみる。

いつも使う検索エンジンと全く同じ使用感だわ。


とりあえず、検索結果の一番上の項目をタップ。



孫麗玲 30歳 女性 出身:中露連合国

宇宙統合軍中佐。

1年前に異星人勢力との間に勃発した大規模戦闘『オリオン戦役』。 この大規模な会戦において、当時、大尉であった彼女が立案した作戦により、歴史的な大勝利を収めた。

その功績を讃えられ異例の二階級特進を果たし、中佐となる。



へぇ~、軍人さんだったんだ。しかも中佐って…

確かなかなかの地位よね?

しかも、大規模な会戦での作戦立案が認められて大勝利ってすごいじゃない!


こんな大きな戦争があったんだ。何か毎日ニュースでやってたような…

まぁ、一般の普通の女子高生にとっては興味の対象外、よね?



じゃあ、違うスレも見てみよう。



なになに?


『味方殺しの参謀、死神軍師』



え?

なにこれ?



何か色々な心ない言葉の書き込みがある。


[二階級特進をエサに味方を巻き込む作戦を立てたんだ。俺の父親はそれに巻き込まれて死んだんだ]


[作戦に参加していた中露軍にはほとんど被害がなかったんだってよ。この中露の犬!統合軍の恥さらしっ!]


[その中佐の階級章は何万人の血でできてるんですかねえっ!]



ひ、ひどい…

過去の書き込み、追いきれない…

こんなの、わたしじゃあ耐えられないよ。



ど、どういう事?

孫麗玲さんは、こんな誹謗中傷にさらされ続けているの?




えっと、『オリオン戦役』。

そうだ!『オリオン戦役』について調べてみよう。



あった!


え~と、、、



地球圏ギリギリのところで行われた異星人との戦い。

圧倒的な数での侵略者に対し、統合宇宙軍は各国宇宙軍と共闘。

数カ月に渡る防衛戦の後、敵の本隊を引きずり出すことに成功する。

地球軍はかねてより準備を進めていた『超広域破壊兵器』を投入。

この『超広域破壊兵器』により、異星人軍は壊滅。地球軍の勝利となる。


しかし、その輝かしい勝利の裏で、作戦に参加した友軍艦隊の、実に8割が壊滅するという、前代未聞の甚大な被害が発生。


なお、この作戦の立案者は孫麗玲大尉(当時)である。



あれ?考察もある。少し見てみよう。


。。。

しかし、この昇進は、世間や軍の内部から、昇進のため「味方の多大な犠牲を問わない、大規模戦略兵器を用いた非人道的な作戦を立案した」とされた。 この一件以降、彼女は、羨望と、そして畏怖と侮蔑を込めて、こう呼ばれるようになる。

『味方殺しの参謀』 『死神軍師』

そして、彼女がその肩につける階級章は、『血塗られた勲章』と揶揄される。

そんな彼女も弊職においやられた。何らかの軍の思惑、陰謀があったのではないだろうか…

。。。



唖然。

絶句。

こ、こんなの苦しすぎる…



他のスレッドや、記事を見てみても、みんな、みんな孫麗玲さんの事を悪く書いてる。



孫麗玲さんは、みんなのために頑張ったのに…


成り行きだけど、わたしに指示をしてくれた時はあれだけお酒飲んでたのに的確な、何も知らないわたしでもわかる指示だったのに…


そんな人が、大量の味方を巻き込む作戦なんて、立てるの?



わたしは次々と孫麗玲さんの記事やスレッドをみていく。



あれ?

統合軍の広報?

見てみよう。




うわッ!

これ、孫麗玲さん?

す、すごく綺麗でカッコいい…

こんな人なら、憧れちゃう…



そこには制服を完璧に着こなし、髪も整え、夜会巻きかな?キレイにまとめられていて、品のあるお化粧がされた状態で敬礼をする孫麗玲さんの写真が。



「おい、何見てやがる」



うひゃあっ!



いきなり声をかけられて飛び上がるくらい驚くわたし。


「孫麗玲、さん?戻ったなら戻ったって声をかけてくれたって…」


チッ!


舌打ち一つ、元の席に戻り、足を組んでまたお酒…


「それで?」


は、はい?


「誰の入れ知恵かしらないが、アタシの事しらべたんだろ?」


……


沈黙の肯定。

口に出す言葉が、見当たらない。


「アタシはそういうヤツなのさ、ほっといてくれ」


!?


ち、違う。


絶対に、違う!


「じ、じゃあ、ほっといてほしいなら、なんでここに戻ってきたんですか?」


ちょっと強い口調で突っかかるわたし。


「あん?生憎、まだ部屋がなくてね。こことブリッジと最初にいた部屋しか知らねぇからさ」


うっ、ド正論。


言いたいけど、言っていいか分からない、言葉が出てこない!


わたしが戸惑っていると、医務室のドアが開く。


そこには、息を切らしているヒメカが。


「え、エリィちゃん…く、来る…」


来るって…


もしかして、蟲?


大変、ブリッジに行かなくちゃ!


「アリス!」


わたしは大きな声でアリスの名前を呼ぶ。

数秒後、アリスは光の粒子とともに現れる。


「お呼びですか?マスター」

「うん。多分、蟲が来る…ブリッジに行こう!」

「畏まりました」


わたしは孫麗玲さんに声をかける。


「孫麗玲さん、お願いします。ブリッジに…」


「やなこった。さっきのはたまたまだ。この艦の難民共も『死神軍師』なんかにゃ護られたくないだろうよ」


ひ、ひどい…

人が誠意を持ってお願いしているのにっ!

ぐぬぬ…


こ、こうなったら


「アリス!艦長権限でこの孫麗玲中佐を作戦参謀に任命します!孫中佐!あなたに拒否権はありませんっ!」


「ああん?何言ってやがる」


立ち上がって、わたしに近づいてくる孫麗玲さん。

うん、これって、メンチってやつよね。


「艦長権限承認。孫麗玲中佐を作戦参謀に登録。孫中佐にあっては、アナタの端末にデータを転送します、後でご確認を…」


「ふざけるな!アタシはやらない!」


「ふざけてるのはそっちでしょ!あなたが『味方殺しの参謀』だか、『死神軍師』かはしらないわよ!だったら!わたしが…わたしがこの目で見て判断してやるわっ!」


思いっきり、メンチ切り返して大声で思ってること全力で言ったわ。




あはは


あははは


「あははははっ!アタシに啖呵切るとは言い度胸だお嬢ちゃん。どこぞのお高く止まってるイイトコのオジョウサマ達と一緒かとおもったが、気に入った!いいぜ。ブリッジには上がってやる」


その後もしばらく、大笑いしてる孫麗玲さん。


「麗玲さん、ありがとう」


「勘違いするな。ただ、上がってやるだけだ。それから、馴れ馴れしくするな」


き、厳しい…


「マスター。お言葉通り敵性勢力の接近を確認。至急ブリッジへ」


うん!

今行く!



こうして、わたしは何かワケアリのすごい人、孫麗玲さんを作戦参謀に迎えました。

そして、二度目の蟲たちとの戦いに挑む事になるのです。

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