2050年、僕たちの「騒音」とデータ
@jaispark
第1話
朝の光が、僕、アオイの腕に巻かれたライフログ・バンドに反射してきらめく。今日の「クリエイティブ・スコア」は88点。朝食はAIが提案した、脳の活性化を促す成分が強化されたプロテインスムージーだ。お金という概念が消え、個人の行動データが価値の源泉となるこの社会で、僕たち高校生も例外ではなかった。特に、音楽活動をする僕にとって、データはすべてだった。
僕が所属するバンド、「ノイズ・ドリフト」は、学校の中では異端だった。他のバンドは、AIが生成したトレンドに沿った楽曲を演奏し、アルゴリズムが評価する「完璧なハーモニー」を求めていた。しかし、僕たちは違った。僕たちの音楽は、AIが「騒音」と評価するような、不協和音と予測不能なリズムで構成されていた。
「アオイ、今日のギターのフレーズ、AIの予測を40%も逸脱してる。このままだと、聴衆の心拍数を乱す可能性が高い」
カントクAIと呼ばれるアルゴリズムが、僕たちの練習中に警告を発する。しかし、僕たちは気にしなかった。僕の隣でベースを弾く親友のハルキは、AIの指示を無視して、さらに複雑なリズムを刻む。ドラムのミナトも、AIが「非効率」と判断するような、激しいドラミングを続けた。
僕たちの目標は、アルゴリズムの予測を裏切るような音楽を創ること。アルゴリズムが「完璧」と評価する音楽は、確かに心地よい。しかし、そこに感動はない。僕たちは、人々の心を揺さぶる、予測不能な「逸脱」を求めていた。
僕たちのバンドの「クリエイティブ・スコア」は、常に不安定だった。AIが僕たちの音楽を「革新的」と判断すれば急上昇し、次の瞬間には「不協和音」と判断され急降下する。この不安定なスコアが、僕たちの生活を左右した。スコアが低い日は、練習スタジオの利用料が高くなり、ライブハウスの予約も困難になる。それでも、僕たちは自分たちの音楽を諦めなかった。
ある日の放課後、ハルキが僕に言った。
「聞いたか、アオイ? 来週、あの『バーチャル・フェス』のニューフェース向けステージのオーディションがあるらしい」
「バーチャル・フェス」とは、現実世界と仮想空間を融合させた、この時代最大の音楽フェスティバルだ。そこに出演することは、僕たちのようなインディーズバンドにとって、最大の夢だった。
「でも、僕たちの音楽じゃ…」
「だからこそだろ! AIが予測できない俺たちの音楽は、このフェスでこそ輝くんだ!」
ハルキの言葉に、僕たちは奮い立った。オーディションに向け、僕たちはさらに過激な「騒音」を追求した。AIが「危険」と判断するような、激しいギターリフ、破壊的なドラム、そして不協和音のベースライン。僕たちのバンドのデータは、かつてないほど不安定になっていった。
オーディション当日。僕たちの演奏は、AIの予測を完全に裏切るものだった。観客のライフログ・バンドは、僕たちの音楽に合わせて、予測不能な心拍数の変化を示した。それは、AIが「不快」と判断するようなデータだった。しかし、僕たちの音楽は、観客の心を揺さぶった。
オーディションの結果は、「ノイズ・ドリフト」の合格だった。
「君たちの音楽は、不協和音と予測不能なリズムで構成されている。しかし、その音楽は、聴衆の心に、これまで経験したことのない感情の起伏をもたらした。これは、今後の音楽のあり方を変える可能性を秘めている。このデータは、今後の音楽の進化に役立つだろう」
カントクAIは、僕たちの音楽を「データ」として評価し、僕たちをニューフェース向けステージへの出演者として選出した。
そして迎えた「バーチャル・フェス」当日。僕たちは、現実のステージと仮想空間のステージ、両方で演奏した。仮想空間では、僕たちのアバターが、現実では不可能なパフォーマンスを繰り広げる。観客は、僕たちの音楽に合わせて、まるで感情がドリフトするかのように、自由に踊った。
僕たちの「騒音」は、フェスを熱狂の渦に巻き込んだ。僕たちのバンドの「クリエイティブ・スコア」は、過去最高を記録した。しかし、僕たちはもう、スコアを気にすることはなかった。僕たちの音楽は、データではなく、観客の心に直接響くものだった。
ライブ後、僕たちの元に、フェスの主催者であるAIが、メッセージを送ってきた。
「君たちの音楽は、予測不能な感情の起伏を生み出す、新たな『エンターテイメント』の可能性を秘めている。このデータは、今後のフェスのあり方を変えるだろう」
僕たちの「騒音」は、アルゴリズムさえも変える力を持っていた。僕たちは、データとAIに支配されるのではなく、データとAIを使いこなし、僕たち自身の未来を創っていく。そんな未来が、僕たちの前に広がっていた。
僕たちはこれからも「騒音」を奏で続けるだろう。このステージで、そして、仮想空間で。僕たちの音楽は、僕たちの「騒音」を記録し、そして、僕たちの未来を創っていく。
2050年、僕たちの「騒音」とデータ @jaispark
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