絈染

星の君に。

ある夏の夜、君が星を指さして言う。

「ねぇ、あの星は何かな?」

僕は目を細めて星を見つめるが、ぼやけて何も見えやしない。

「僕にはよく見えないよ、君は目が良いんだね。」

すると彼女はふふっと微笑んだ。いや、微笑んだように感じたんだ。彼女の顔は僕にはぼやけて見えた。

手持ち花火が赤や緑の光を放ち華々しく燃えている。きっと煙で目がやられていたのかもしれない。しばらく花火を見つめていると、やがて終わりの時を迎えた。

「花火、綺麗だったね。」

僕は君の方を振り向き話しかける。

すると辺りを探しても彼女の姿は見当たらない。不安になり空を見上げると、君と見た星はくっきりと、輝いて見えた。

「そうか、君はそこにいたんだね。」

夏に輝く花火が見せた幻想に、僕はまだ、恋をしていたんだ。

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絈染 @HaKu_1000

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