相性診断
藤屋・N・歩
第1話
「ねえ、雪ちゃん! 『16タイプ性格診断』って知ってる!?」
机に身を乗り出してきた美沙の瞳は、日光を反射してきらきら輝いてる。
雪は文庫本から顔を上げ、眉をひとつ上げた。
「MBTIじゃないことなら、知ってるわ」
「わっ、イメージ通りの返事! ……ってことで、代わりに答えておいたよ!」
「いいのかしら、そういうの」
「ISTJ、ロジスティシャン、真面目で誠実で正義感があるんだってさ。信憑性あるよ!」
「そんなふうに思ってくれてるのね。それで、美沙は?」
「あたしはね、クロヒョウ」
「同じ診断をやりなさいよ」
「自分の世界観を大事にして、分析を重視するタイプ……」
「まあ、勝手に分析はしてるわね」
「不測の事態にも柔軟に対応できるクールさもある……だからさ、雪ちゃんとは相性ばっちり!」
「……そういうこと。それじゃ私との相性は悪かったんだ」
「うっ……」
「ふふっ。私、不誠実なのは許せないなあ」
「……だって、なんか不安になったんだもん」
言い淀む美沙の声が、昼休みの喧噪に溶ける。
雪はゆっくりと手を伸ばし、美沙の指先を包み込んだ。
「不安にさせたのなら、ごめんなさい。……私は、美沙が大好きよ?」
「……あ、あたしも……好き。雪ちゃんのこと」
雪は勝ち誇ったような笑顔を見せる。
「……あら、もうこんな時間。次の授業の準備をしないと」
「あ、ほんとだ! あたし先トイレ行ってくる!」
美沙は机を離れ、足早に教室を出ていく。
その背中を見送りながら、雪はそっとため息を落とす。
「……相性なんて、気にしなくていいのに。私はそんな誠実な人じゃないよ、美沙」
ため息も独り言も誰も聞いてはいなかった。
相性診断 藤屋・N・歩 @shinnarifuji
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