夢の話

夏野 星空

第1話 獣

夢を見た。 目を背けたくなるような悲しい夢だった。目が覚めると私はつが生えたイノシシのような見た目になっていた。足も4つある。これじゃまるで動物だ。


「オギャーオギャー。」


お腹の下を見るとたくさんの動物の赤ん坊がいた。この状況を察するに渡しはこの子たちの親ってことになる。

「オギャー。」

赤ん坊たちは泣きながら私の胸を見つめている。どうやらミルクがほしいようだが私はどうやって渡せばいいのか分からない。とりあえず胸を差し出してみる。すると赤ん坊たちはまるで飲み方を知っているかのようにミルクを飲み始める。今まで感じたことのない感覚を感じた。

お腹がいっぱいになった赤ん坊たちは気持ち良さそうに眠ってしまった。安心して眠る顔はまるで神秘的な物を見るような美しさだった。

とはいえ私もお腹が空いた。さすがにこの状態ではミルクをあげるのもきつそうだ。子供たちを置いていくのは不安だけど仕方ない。

私は慣れない四足歩行で歩き回った。最初はふらついていたけど徐々に慣れていった。

しばらく歩いていると遠くに草を食べる羊たちを見つけた。心苦しいけどこれも生きるためだと言い聞かせ私は一匹の羊に狙いを定める突進した。羊は突然のことにびっくりしバランスを崩してしまう。私は四足の足でがっちり羊を捉え角をお腹に向けて何度も突き刺した。

「やめて。命だけは助けて。私には子供がいるから帰らなきゃいけないの。」

羊の叫びは飢えたお腹の私には届かなかった。

羊の肉を食べお腹が膨れるとふとわれにかえる。目の前には無惨な羊の姿。生きるためとはいえなんだか悲しい気持ちになった。急に人の体が恋しく感じた。

そんな気持ちを抱えながら子供たちの元へ戻ると子供たちの元気な泣き声が聞こえてきた。

「オギャーオギャー。」

どうやらまたお腹がすいたようだ。私は子供たちに胸を差し出した。元気にミルクを飲む姿を見てあの羊の叫びを思い出した。

「私には子供がいるから帰らなきゃいけないの。」

私のやっていることは本当に正しいのか分からない。他の幸福を壊してまで生き続ける意味はあるのか?。

「マミー。マミー。」

私の事を呼んでいるのだろうか?。子供たちを見ると不安そうな表情を浮かべている。その表情を見て私の疑問は消えた。正しいか正しくないかじゃない。私には守るものがある。だから仕方ないと心に何度も言い聞かせた。

私は子供を抱き締めた。かりの疲れが出たのか私は子供たちを抱えたまま深い眠りへ落ちた。


「マミー。マミィィィィ。」

子供たちの叫び声に飛び起きた。辺りをみると鎧をきた三人の人間が子供たちを襲っていた。

「まずい。でかいのが目を覚ましたぞ。」

人間たちは私の姿を見ると逃げる姿勢を見せていた。目の前には子供たちの遺体が入った大きな袋があった。私は怒りのまま角を構え一人の人間に突進した。角は人間の鎧を貫いた。

「母さんごめんな。どうやらもうそっちには帰れそうにないや。」

人間の最後の声は怒り狂った私には届かない。

「ちきしょう。よくも俺の仲間を。うおおおおぉぉ。」

一人の人間が私に刃を向けて走ってくる。理由は言うまでもないだろう。私が殺した人間の敵を打つため。こうして復讐の連鎖は繰り返されるのだろう。

人間の刃は私の角を切り裂いた。

「どうだ痛いだろう。でもあいつはもっと痛かったはずだ。」

私は再び走ってくる人間を足で捉え鋭い爪で人間の喉へと突き刺した。爪は人間の喉を容易く貫き血しぶきが私の顔へと飛び散る。

「もう終わりかよ。せめてあいつと同じ場所に逝きた、い、、な。」

人間はたった一人になった。グルルルルと私は喉を怒らせる。

「ふっ。中々元気があるじゃないか。」

人間は震えながらも余裕そうな素振りを見せる。私の目は人間を狙いを定める。子供を殺された心の叫びはガルルルという音へと変わる。

「うるせえ。さっさと来い。」

私は人間に向かって突進した。やがて人間を捉え爪を喉に向けて突き立てた。人間の口から血しぶきが舞う。これで終わりだと思っていた。しかし。

「く、ら、ぇ、、」

人間は力を振り絞り持っていた刃を私の心臓へ突き刺した。私は♂に被さるように倒れ混んだ。意識がどんどん暗くなっていく。真っ暗な世界でかすかに聞こえた声。

「み、ん、な。いま、逝、く、。」


目が覚めると私はベッドにいた。くしゃくしゃになった毛布と涙で濡れた枕元。私はまた悪い夢を見たようだ。

トーストを焼いている間夢の事を考えていた。この世界は悲しみで溢れている。何かを犠牲にしないと生きられない世界。人間である私にもいつか罰がくだる時が来るのだろうか?。もしその時が来たら私もあの人間とイノシシのようにあがくのだろうか?。

チーンっとトーストが焼ける音で現実世界に戻され私は考えるのを止めた。その時が来たらまた考えればいい。私は目玉焼きの乗ったトースト見つめ手を合わせた。

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