第20話 魔王、見知らぬ地に立つ

——熱い。


目を開けた瞬間、灼熱の空気が肌を刺した。

空は鉛色に曇り、地面はひび割れた赤土。

遠くで黒煙が噴き上がり、溶岩の川がゆったりと流れている。


「……ふむ、火山地帯か」

マントを翻しながら、魔王は静かに状況を観察した。

転移の感覚が消えた瞬間、気づけばこの地。

勇者も——あの健康管理係の男も——ここにはいない。


周囲は静まり返っている……と思った矢先、足元がぐらりと揺れた。

地面の割れ目から、全身を溶岩色に輝かせた巨大なトカゲが這い出してくる。

口を開け、熱風混じりの咆哮。


「……くだらぬ」

魔王が片手を上げると、黒炎が渦を巻き、トカゲを一瞬で包み込んだ。

次の瞬間、そこに残ったのは黒い灰だけ。


「この程度では、余を退屈させることすらできぬか」


そう呟き、歩を進める。

しかしこの地の景色はどこまで行っても変わらない。

赤土、岩山、時折吹き出す蒸気——まるで炎の牢獄だ。


ふと、視界の端に奇妙な岩が映った。

「……あれは……ケーキ?」

岩肌の模様と形が、誕生日に出されたチョコケーキと酷似していたのだ。

「ふむ……チョコが食べたい」

——誰も突っ込む者はいない。


ケーキ岩に近づくと、その影に洞穴が口を開けていた。

中から涼しい風と、香ばしい匂いが流れてくる。

魔王は躊躇なく足を踏み入れた。


薄暗い洞窟の奥に、黒いローブの人影が立っている。

その足元では、小さな地竜がじゃれついていた。


「……また会いましたな、魔王様」

見覚えのある声。あの、地竜使いだ。


「貴様……」

次の瞬間、地面が激しく揺れ、床が抜け落ちた。

魔王の体は闇の中へと吸い込まれていく——。

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