第18話 魔王、森で大暴れ

痩せると噂の薬草——その名もフェンリルリーフ。

煎じて飲むと脂肪を燃やすらしい。

魔王の健康管理係としては、手に入れないわけにはいかない。


俺は隣国との国境近くに広がる「黒き風の森」へ足を踏み入れた。

魔物の出没率は高いが、魔王に黙って抜け出したので援護はなし。

完全にソロ行動だ。


「……あった!」

茂みの中に、銀色の縁を持つ葉が輝いている。

フェンリルリーフ。形状も噂どおりだ。


袋に詰めようとした瞬間——

「ガァァァアアアッ!」

背後から、全身を黒い毛に覆われた巨大な影狼が飛びかかってきた。

鋭い牙、炎のような赤い目。

まさか……影狼バルグル!?


全力で走るが、森は逃げ場が少なく、息が切れる。

足がもつれ、転んだ瞬間、狼の爪が振り下ろされ——


「余の臣下に手を出すとは、千年早いわ」


低く響く声と共に、黒いマントが視界を横切る。

次の瞬間、狼は轟音と共に吹き飛ばされていた。


「……魔王様!」

闇の魔力を纏った魔王が、悠然と立っていた。

片手で狼の動きを封じ、もう片手から黒炎を放つ。


「ふん、噂の薬草を探しに行ったと思えば……おぬしは本当に目が離せぬ」


狼が再び立ち上がり、牙を剥く。

魔王は軽くため息をつき、指先を弾いた。


――ボゥッ!


黒炎が狼を包み、その巨体は苦悶の咆哮を上げながら灰へと変わっていく。

辺りに静寂が戻った。


「これで邪魔者はいなくなったな」


魔王がそう言った、そのとき——


「……影狼の気配が消えたと思ったら……なぜお前がここにいる、魔王ッ!」

森の奥から、剣を構えた男が駆けてくる。

金色の髪、蒼いマント——勇者だ。


「ほう、勇者よ。魔獣を追ってきたのか」

「そうだ……だが、追い詰めた先で魔王と鉢合わせとはな」

勇者の瞳に、闘志が宿る。


魔王は鼻で笑う。

「ならば次は余がおぬしを倒す番か」


森の空気が一気に張り詰めた——。

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