第9話 魔王、健康診断を受ける

「年に一度の健康診断を実施します」

城の医療班からそんな通達が届いた。


当然、対象には魔王も含まれている。


「我は魔族の王。多少の病などせぬ」

玉座から聞こえる低い声。


「でも、長生きしたいですよね?」

俺が言うと、魔王は口を閉じた。

「……むぅ」

わかりやすく動揺している。


——


まずは身長と体重。

魔王は堂々と体重計に乗った……はずが、結果を見た瞬間、眉間にしわが寄る。

「これは……増えておるな」

「……ドラゴン肉のせいじゃないですか?」

「……黙れ」


——


次は視力検査。

「この環はどちらが空いている?」

「……右だ」

「正解です」

魔王は余裕そうだ。

……が、次の小さな環になると一瞬目を細める。

「左だ」

「正解は上です」

魔王の口元がぴくりと動いた。


——


採血になると、さっきまでの堂々とした態度が消えた。

「針か……」

ほんのわずかに、肩がすくむ。

「痛いですか?」

「痛くはない。ただ、好きではないだけだ」

……完全に子どもが注射を嫌がる時の顔だ。


——


最後は診察結果の説明。

医療班の長が紙を手に言う。

「魔王様、甘味と脂質の摂取量が基準値を大きく上回っています」

「ふむ……」

「特に先週、保存庫から高カロリー食品が消えた件——」

魔王がギロリと俺を見る。

「報告したのはお前か?」

「健康のためです」


——


診断を終えた魔王は、玉座に座り直して深くため息をついた。

「……まったく、健康管理とは骨が折れる」

「骨が折れる前に健康を守るためのものですよ」

「ぐ……正論だ」


——


こうして魔王の一年ぶりの健康診断は終わった。

なお、その日の夕食は全品サラダ。

魔王はしばらく黙ってサラダを見つめていた。


——


次回、魔王の逆襲が始まる……かもしれない。

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