第5話 マヤvsあゆみ 鏡の中の嫉妬心
楽屋のドアを閉めた瞬間、緊張の糸が切れたようだった。マヤは鏡の前に置かれた自分の化粧台から立ち上がり、背後で息を整えているあゆみを見た。
「あなたにはできないわ」
マヤの声は低く冷たい。
「主演なんて」あゆみは唇を噛みしめながら言った。「主役は私よ」
舞台の照明が消えた直後の静寂を切り裂くように、二人の女優は衝突した。
最初は言葉だけの争いだった。しかし、次の瞬間にはマヤの手が伸び、あゆみの胸ぐらを掴んでいた。あゆみは反撃し、マヤの長い黒髪を乱暴に引き寄せた。
「あの役は私のものだって言ったじゃない!」
「約束したのは私よ!」マヤは叫び返し、あゆみの頬を打ちすえた。乾いた音が響く。
二人は床に倒れ込んだ。あゆみの舞台衣装の襟元が裂け、白い肌が露出する。マヤの爪が相手の腕に食い込む。
「やめて……!」
あゆみは痛みに顔を歪ませたが、すぐに攻撃に出た。マヤの長いドレスの裾を掴み、思いっきり引き裂いた。布地が悲鳴のような音を立てる。
楽屋の中は次第に戦場と化していた。椅子が蹴り倒され、鏡にはひびが入った。二人は互いの唇を噛み合っていた。血の味が口の中に広がる。
「あなたの演技じゃ客は満足しない!」
「あなたこそ! 売春婦みたいな振る舞いで人気を集めただけでしょう?」
罵声が飛び交い、拳と拳がぶつかり合う。マヤの強烈な一撃があゆみの顎に入り、あゆみは壁際まで吹き飛ばされた。
「もう許さない!」
マヤは追撃しようと踏み出すが、あゆみは素早く反応し、マヤの長い髪を掴んだまま引きずり倒した。二人は床で絡み合ったまま転がり回る。
「あなたなんかに負けない!」
あゆみの指がマヤの首にかかる。苦しそうな呻き声が漏れるが、マヤは即座に体勢を立て直し、あゆみの脚を払った。二人は再び床に叩きつけられる。
楽屋の外では何も聞こえない。二人は自分たちの世界に没頭していた。この争いに終わりはないことを知っているかのように。
「いい加減にしなさい!」
マヤは突然叫び、あゆみの肩を突き放した。しかし、それですべてが終わるわけではなかった。あゆみはすぐに起き上がり、マヤの頬を平手で打った。乾いた音が部屋に響く。
二人は荒い呼吸をしながら向き合った。服はボロボロになり、髪も乱れていた。でも、その目だけは激しい光を放っていた。
「これからもずっとこうなのね」
あゆみは吐き捨てるように言った。
「永遠に、このまま」
マヤは冷たく微笑んだ。その表情にあゆみは震えた。これが最後の夜ではないことを悟ったのだ。
二人は睨み合い、どちらも視線を逸らさなかった。そして再び——今度はより激しく——二人は衝突した。
戦いは続く。止まる必要などない。なぜなら、これが二人にとって唯一の表現方法なのだから。楽屋の扉は固く閉ざされたままだ
二人の女優は楽屋の中で死闘を繰り広げていた。互いに憎しみをむき出しにしながら、激しくぶつかり合う。もはや言葉は不要だった。感情が肉体を通して爆発しているのだ。マヤはあゆみの腕を掴むと壁に向かって投げ飛ばそうとしたが、あゆみはそれを避け、逆にマヤの足を払おうとする。しかしマヤは素早く身を翻し、あゆみの背中を押して床に押し倒した。
「どうしてわかってくれないの?」
あゆみは怒り狂ったように叫んだ。
「私がどれだけ努力してきたと思っているの? あなたなんかに負けたくないのよ!」
「努力すれば報われると思ってる?」
マヤは冷笑した。「甘いわね。世の中そんなに単純じゃないわ」
あゆみは歯ぎしりをしてマヤを睨みつけた。彼女の目からは涙が流れ落ちている。それは悔しさとも憤りともつかぬ複雑な感情だった。あゆみは立ち上がるとマヤに向かって掴み掛かった。二人は揉み合いになりながら床を転げ回る。ドレスの裾が裂け、髪が絡まり合う。お互いの爪が皮膚に食い込み血が流れる。それでも二人は止めようとしない。むしろますますエスカレートしていくばかりだ。
楽屋はまるで嵐のようになっていた。テーブルや椅子がひっくり返り物が散乱している。二人の女優は獣のように咆哮しながら激しくぶつかり合っている。あゆみはマヤを力一杯殴ろうとしたが空振りに終わった。代わりに自分が倒れてしまったのである。マヤは勝ち誇ったような笑みを浮かべるとあゆみに馬乗りになった。そして何度も往復ビンタを浴びせかける。乾いた音が連続して響き渡る。あゆみの頬が赤く腫れ上がる。しかしあゆみも黙っていない。渾身の一撃をお見舞いするべく全力で反撃したのであった……結果的には両者とも力尽きた状態となってしまったのだが――それでもなお彼女達の闘志は失われていなかったのである! 今や楽屋は完全に戦場と化していたといってもよいだろう。そんな中において唯一無傷でいる存在と言えば鏡だけである。そこには全身ボロボロになった姿がありありと映し出されていた。しかしそれは同時に美しさも兼ね備えていたと言うべきかもしれないだろう。何故ならばどんな時でも人間の持つ生命力というものを感じさせるものであったからだと言えるのではないかと思う次第なのである。さて次なる局面はどうなるのであろうか……?
一方その頃楽屋外ではスタッフたちによる必死の呼びかけが続いていたものの一向に改善される様子は見えないといった有様であったということなのだとか……果たしてどのような結末を迎えることとなるのかについてはまだまだ予断を許さない状況と言えるだろうと思われるところであろうと思うけれども皆さんもぜひ注目してくださいませね♪
楽屋の扉は堅く閉ざされていた。その向こう側では二人の女優が互いのプライドを賭けて死闘を繰り広げているはずだったが、外からは何の音も聞こえてこなかった。ただ静寂だけがあるのだ……
「おいどうしたんだ? 誰か中の様子を見てきてくれよ」
「ダメだ開かないぜ鍵がかかってるみたいだよ全く困っちまったもんだぜ本当によオイいいかげんにしてくれないかナァ!」
「うるせぇ黙ってろってんだバカ野郎ッ! いま大事なところなんだからジャマすんじゃねぇって言ってんだろゴルァッ!!」
スタッフたちの会話が飛び交う中突如として扉が開け放たれたと思う間もなく一人の女性が姿を現したのである……
動画はこちらhttps://x.com/nabuhero
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