食卓で「プールの底に置くなら?」と聞かれた夜

赤とんぼ

「プールの底に置くなら」

昔の話。

両親と暮らす古い平屋。台所を挟んで、私の部屋と居間が向かい合っている。

壁が薄く、どこにいても会話がよく聞こえる家だ。


小学3年生の時の8か月間くらいの間、居間の両親が時々、妙な会話をするようになった。普段は比較的小声で話すのに、妙な会話の時だけ、テレビの音をかき消すくらい楽しげに喋っている風。


その話し方が独特で、声も言葉も聞き取れる。なのに、話の内容が聞き取れないってか意味が理解できない。くだらない冗談のようで、でも笑いどころが見えない、コショコショって口を小さく使って外国語みたいに話す感じが一番近い。


なぜかその時の母は、普段より饒舌で、父も相槌を多く打つ。


初めて、妙な会話が聞き取れたのは、2か月後くらい。

自室で宿題をしていると、父に呼ばれた。少し怒ってるような感じだった。

居間に行くと、両親がいる。にやにやしながら、私の前に青いビー玉と紙の束を置いた。

「牧人、プールの底に置くなら、何がいい?」

意味が分からず笑ってしまい、「…スイカ?」と答えると、父は「甘いものか。なんで?」と聞く。

「理由なんてないよ。ただ思いついただけ」とだけ言った。

「まあなぁ……」

父は不思議そうな顔で頷き、母は笑ったまま無言だった。


半年くらい経って、いとこと三人で夕食をとっていたとき、父がふいに同じ質問をした。

いとこは少し考えて、「…金庫かな」と答えた。

父も母も同時にうなずき、しばらく何も言わず食事を続けた。なんか「良かった」とか「見つかった」とか妙な会話で言ってた。


これが俺の、誰にも言ってない話だよ。

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食卓で「プールの底に置くなら?」と聞かれた夜 赤とんぼ @ShiromuraEmi

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