水の中で君が見せた笑顔と息の音は私を"ハート"に溺れさせる

アレクサンドル

第1話 これが私とアイツの出会い


 「……ごぼっ!!」



 私は湯船の中から顔を浮きあげる。



 「ふぅ……」



 はぁはぁ……と、息を吐く音が聞こえる。新鮮な空気は美味しい──。



 「やっーぱ……気持ちいいー♡」



 私、梅宮瞳うめみやひとみの変わった趣味。それは、水の中で限界が来る9分目まで潜ることだ。



 「あぁ、さいこ……次はお姉ちゃんに上から押さえてもらおうかな?そっちの方が限界を越えれるかな?」



 そして、いつものようにブツブツと反省を呟いてしまっていた。



 「瞳ー!いつまでお風呂にいんの?私入りたいんだけど!」

 「あ、ごめん!」



 この趣味を知ってるのは家族でお姉ちゃんだけ。



 「……あぁ……ゾクるわぁ♡」



 まぁ、見ての通り私は根っからのマゾ気質なんだ。自分の苦しむ声、呼吸の泡、もがく体の動き……ん、何故か癖になるわ。



◇◇◇



 「あ、瞳おはよー」

 「あ、瑠美るみおはー」



 

 私、梅宮瞳は都内の共立進学校に通う高校2年生だ。ブレザーを脱いだシャツに身を包んでポニーテールを揺らしながらルンルンと歩く。



 「んー!!」



 5月の終わりの日差しが照らしてきて暖かいようで暑いようなこの感覚。



 「あちぃな」



 どこかの漫画の敵キャラのように憎しみを込めて太陽に怨嗟を放つ。



 「ん?瞳?」

 「あ、ん、何でも」



 水の中で育つ私には光合成はいらないからこの暑さを何とかしてくれよ!!マジ、暑いわ!!早く頭を水に沈めたいわ〜。



 「そういえば瞳はさ、あの趣味が──モゴッ!!」



 瑠美が声を上げると共に私は瑠美の口を押さえた。



 「声大きいからっ……!!」



 ここにいる瑠美は私の"水に潜る趣味"を知っている1人でもあるんだ。



 「あ、ごめんごめん(笑)」



 瑠美がニヤける。



 「容姿端麗で、勉強もできて、スポーツも得意、唯一の難点はそのヤバい趣味」

 「ヤバくはない!」



 つまり、私のこの趣味を知ってる人はお姉ちゃんと昔からの親友の瑠美だけ。



 「はぁ……まぁ、サドの人には好かれそうだけどね」

 「いや、異性のサドは受け付けないわ。寧ろ私がいじめたいね」

 「いや、アンタ情緒ぐちゃぐちゃだわ」



 こんな感じで私の高校生活は進む。



◇◇◇



 「んー!!学校終わったー!!」



 1日の終わり。私は椅子から立ち上がる。



 「梅宮」

 「はい?」



 その時、担任から声が掛けられる。



 「この前、放課後の掃除を忘れた罰を忘れたのか?」

 「ギクッ」

 「はーい、残りなさーい」



 生徒数名に笑われる──。

 あぁ、畜生!!プールに行きたかったのに!!

 私は渋々と鞄を置いて、箒を取りに行く。プールでは息を止めて泳ぐことを中1からやってる。



 「それじゃあ俺が職員室から帰ってくるまで掃除な?」

 「あーい」



 私は気だるげに返事をし、一緒の掃除当番である高砂宏紀たかさごひろのりと瑠美と掃除を始める。



 「瞳ってこういうとこはバカだよねー」

 「うるさい」



 瑠美にクスクスと言われて私は少しムスッとしていた。



 「それじゃあサクサクやって苦しまないとねー♡」



 意味深に瑠美が私の耳元に囁く。



 「……」



 だからうるさいっての。



 「梅宮さん」

 「ん?」



 その時、高砂君が近寄ってきた。



 「どしたの?」

 「……」



 高砂宏紀。黒髪の至って普通の男子。特に特徴がある訳ではなく、影が薄い訳でもないただのクラスメイトだ。



 「この後さ、空いてる?」

 「え?」



 突如、男子から何かのお誘いを受けそうになった。



 「え、あ、いや……」



 私は少しテンパる。



 「んー?高砂って瞳と何かしたいの?」



 その場にいた瑠美がふと、助け舟を出そうとしてくれる。



 「……したい」



 な、何がだ?

 男子に誘われるなんて初めてなんだけど!?



 「ぷ、"プールに行きたい"なって」

 「……」



 この時、止まっていた電波時計が時間を合わせようと動き出すように私の心に何かが灯る。



 「了解」



 そう、声を限界までイケボにさせて腕を組みウインクする。プールに行きたい……それなら、望むところ。私は水の中でやりたいことだったらオールラウンダーだからね──。



 「えー、水着目的?」

 「「!!」」



 瑠美のその声が私の世界をぶち壊した。



 「あ……あ……ごめんっ!!!」



 高砂君はその言葉と共に顔を赤らめて荷物を持って教室の外に走っていった──。



 「……ねぇ、お前何してくれてんの?なぁ?」



 私は折角の申し出を無碍にした瑠美に詰めよる。



 「ごめんごめん(笑)」

 「はぁー……折角"苦しめる"と思たのにな──」

 「その言葉がおかしいでしょ」



 だが、私はこれから知っていく。高砂宏紀の狂気を──そして、この日の出会いが私を変えていくのを──。



 「でも五分五分だと思うんだけどねー」

 「え?」

 「高砂って瞳の苦手な異性のサドタイプだもん」

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