第12話 出会いの弁当

花隈はなくま高校に入学して、もう1ヶ月が経った。


5月8日。


そういえば、言い忘れていたが、入学式は4月8日だったんだ。


それに、4月26日から5月6日までゴールデンウィークだったんだが……。


バイトばかりしていて、得に話すような内容ではなかったので、カットさせてもらうよ。


それは、さておき、5月といえば……そう、五月病。


五月病とは、新しい環境に適応できないことで起きる精神的な症状のことだ。(俺調べ)


なんでこんな話をしたかというと、新しい環境、という言葉が今の俺にぴったりだと思ったからだ。


高校生で一人暮らししている人なんて、そう多くないはずだ。


つまり、頼れる人が身近にいない。


トラブルがあっても、一人で抱え込まないといけない。


そう考えている時点で、もう五月病なのかと疑ってしまう。


まあ、何が言いたいかというと、皆も気をつけようってことだ!


我が校では、5月といえば他には……球技大会がある。


体育祭の代わりに球技大会が開催されるらしい。


なんでも体育祭だと、だらける生徒が多いからだとか。


球技大会なら、クラス対抗で競い合うからサボる奴はいないらしい。


俺にとってはどっちでもいいけど、最初のイベントに球技大会を入れるのは良い選択だと思う。


(誰目線だよ……つーか、前置き長いな)


理由は、先月のLHRでやったサッカーの時にも感じたが、スポーツはクラスのチームワークを上げるのに最適だからだ。


スポーツか……。運動神経がいい奴はいいけど、俺みたいに得意じゃない人間からすると、あまり喜ばしいイベントではない。


「佐伯!佐伯!聞いているのか!!佐伯!」


「はっ、はい!」


俺は反射的に立ち上がってしまった。


今は4限目の数学の授業中だ。


「すみません、ボーっとしてました」


「ほう?俺の授業でボーっとするとは……随分余裕だな?」


やばい、余計なことを言ってしまった。


「そんなに余裕なら、この問題、余裕で解けるよな?」


ええっと……問題は因数分解か。


「答えは、(x-3)(x-4) です」


「……正解だ。座っていい」


俺は席についた。


危ねぇー。


こんな漫画みたいなこと、本当にあるんだな。


それから俺は真面目に授業を聞いた。


そして、授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。


さて、昼休みの時間だ。

いつもの体育館裏に行こう。


体育館裏に向かうと、そこには男女のカップルがイチャイチャしていた。


まあ、俺だけの場所じゃないしな……。


どこにしようか?


人目がなくて、もしくは見られても恥ずかしくない場所……といえば、食堂か。


初めて食堂に来たが、ものすごい人だかりだ。


座る場所を探していると、声をかけられた。


「お!佐伯くんじゃん、今日食堂?」


「いや……弁当だけど……いつもの場所が空いてなくて……」


「それじゃあ、一緒に食べようぜ!いいよな?昭彦あきひこれん


副委員長が、他の2人の生徒に話しかけた。


「ああ!別いいぜ、よろしくな!俺は山本昭彦やまもと あきひこって、クラスメイトだから知ってるか!」


「そうだよ。……よろしく、佐伯くん」


「うん……よろしく。(そうだ、よく見たらクラスメイトだ)」


顔は覚えられるのに、名前が覚えられない。


どうやったら覚えられるんだろう?


「まあ、とりあえず座れよ」


俺は、副委員長のお言葉に甘えて座った。


「佐伯くん……その弁当って、お母さんの手作りか?」


「いや?俺が作ったんだけど……」


え?何その表情?俺、何か変なこと言ったか?


「まっ、マジかよ!え?佐伯くん、料理得意なのか?」


「マジで、美味そうじゃん!なぁ、俺の肉とその卵焼き、交換しようぜ!」


「ずるい!俺もこの唐揚げと交換してもいい?」


「おい!やめろよ、二人とも!」


「いや、別にいいよ。交換しよう」


交換すると、二人はそれぞれ卵焼きを口にした。


「うっ!美味い!!普通に美味いぞ!」


「マジ?俺も……いいか?このかぼちゃの天ぷらをあげるよ……」


「いいよ……」


「ありがとう。それじゃあ、俺はこのハムをもらうよ」


副委員長が口にしたのは、チーズをハムで巻いて焼いたハムカツだ。


これも俺の手作りだ。


「美味い!!マジかよ。こんなに料理が美味いと良いお嫁さんになるな!!」


俺は男だよ……嫁じゃない。


けど、自分で作った料理を食べて喜んでもらえるって、こんなに嬉しいんだな。


「なぁ?明日から一緒に食べようぜ!」


「……うん」


こうして、俺にも友達?と呼べるか分からないが、一緒にご飯を食べる人ができた。


これは、一歩成長できたのではないだろうか?

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