第8話「あいつ」
◆◆◆ あなたに夢中 ◆◆◆
眠れない夜を数えて、私は、私の舟は、彼の元に行き着く。
どうして?どうして?
あなたは、いつも、悲しい目をするの?
誰にも相談は出来ない。
あなたの悲しみに答えを出せない。
私にも分からない。
多分、私はあなたに夢中なの。
◆◆◆ そよ風のくちづけ ◆◆◆
あなたの笑顔を見たくて、ワガママを積み重ねたりする。
あなたの優しさが欲しくて、涙を流してみたりする。
あなたの眼差しが欲しくて、ちょっとすねたりしてみる。
でも、あなたは、そよ風の様に、わたしを受けながす。
◆◆◆ 危ない土曜日 ◆◆◆
「これから、私のうちに来ない?」
二人しかいない、部室で、突然を装って、言ってみる。
「え、えーっと、それは、どういうお誘いなのでしょうか?」
秋彦君は、多分、鼻血を我慢している。
「昨日、クッキーを沢山焼いたから、単なる、お茶のお誘いよ」
「そ、そうでしたか」
鼻血は止まった様だ。面白過ぎる。
「よし!行こう!」
そして、私の家、学校から徒歩5分、秋彦君を招待した。
「今日はご両親は?」
「パパは、まだ、ウィーンにいる。ママは、パリから帰って来ない。」
本当の事。
パパは、バイオリニストで、1年の半分は、海外にいる。ママもオペラ歌手で、同じ様に、日本に居ない。
私はいつも、誰かを探している。
でも、私は寂しくはない。
だって、あなたがいるから。
「どう、美味しい?」
「とっても」
と、言いながら、熱い紅茶に顔をしかめている。可愛い。
◆◆◆ なみだの季節 ◆◆◆
でも、あなたは、私の胸の奥にある湖には、気が付かない。さざ波が
たっていても知らないふり。
どこからかラジオの音がする。ちょうどお昼の歌謡曲の時間で、キャンディーズの微笑み返しが流れている。
「キャンディーズの歌って、別れの歌ばっかりね」
「そうでしょうか?それは、考え過ぎでは?」
「別れの歌ばっかりだよ」
「それは、やっぱり、彼女たちが決めたからでしょう」
「秋彦君は3人の中でだれが好き?」
「ス、
スーちゃん…かな?」
「やつぱり…ね」
「それはどういう意味ですか?」
「統計の問題よ」
「世の中の男の子は百パーセント
スーちゃんと言われています」
「そうなんですか?」
「明星に書いて有ります」
明星崇拝者か!
「あ、あー、私も普通の女の子になりたーい!」
「十分、普通だと思いますが…」
「もちろん、私は普通よ。ただ、平凡になりたいの」
明星崇拝者が、平凡を目指していいのか?
◆◆◆ 年下の男の子 ◆◆◆
「でも、
思うのですが、いつもは、貴方とかあの人とか呼んでいるのに、心の中では、あいつ、とかアンチクショウとか、ひどくないですか?」
「それは、考え過ぎよ」
◆◆◆ 哀愁のシンフォニー ◆◆◆
あなたの目が私を見る
でも、私の何を見ているの?
あなたは、何も見ていない。
ただ、眺めているだけ、それが私は許せない。
「帰ります」
何か分からないが、何かしら落ち着かない。
「ご馳走様でした。ありがとう御座いました」
「本当に帰るの?私をこのままにして…」
玄関で靴を履く。引き戸をあける。
「待って、秋彦君」
後ろから、抱きつかれる。
「どうしたんですか?」
「ズルイ!分かっているくせに…」
振り返り、抱きしめる。
そして、唇をあわせる。
甘いクッキーと紅茶の香がした。
明美ちゃんは、涙に濡れた瞳で真っ直ぐに俺を見る。
「好き!」
「ハイ、俺も好きです。ずっと前から…」
「年下の男の子にしては、ましなほうね」
「ゴメンね、また明日、”あいつ“とは呼ばないでね?」
「それは、どーかなぁ!」
エンドロール
黄昏かかる霧の中の街
片隅にあるショーウィンドー
君は中で泣いていた
ガラスの人形 お姫様
君の涙は虹のプリズム
落ちて沈んで消えた
夕暮れせまる霧の中の街
冷たい涙のショーウィンドー
君は僕を見つめてた
ガラスの微笑み お人形
君の命はシャンデリア
キラキラ光って消えた
夕闇落ちる霧の中の街
悲しい記憶のショーウィンドー
僕は君を追いかけた
ガラスの言葉は 届かない
君が描いた光と影は
夢から覚めずに消えた
おしまい
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