TOLDEKIM

大鳥 修司

記憶の売買 アレグロ

『TOLDEKIM』

 

 BGM-Johann Sebastian Bach - 『Harpsichord concerto No. 1 in D Minor, BWV 1052: 1. Allegro』

 

 記憶の売買 アレグロ

 

 我を売ろう、雲を売ろう。

 憶えの記者の備忘録。忘れぬように、備えよう。書きつづろうと筆をもった、生誕のあの日から。

 この半紙、単紙、幾千の薄明をもたらすライターで藍眼あいがんの貫くその先の視界を赫灼かくしゃくたる篝火かがりびで木目に沿って彫りをかぞえよう。

 人ならざる、一つのしずくが問いを発する。

「そなたは象徴、創造を行う求道ぐどう独奏者ソロイストだ。何を奏でて何を創る。そのまなこで何をみることにする」

 九十四番目プルートー影法師かげぼうし、その雫はまた我に問う。

「さあ、そなたはどの記憶を、私に売る」

 我は問う。何を売る。

 既知きちの中、雫は我をわらうラヴクラフトの幻想へと変わり、それは我のオーケストラを貫いた。そして鼻唇溝びしんこうをつくる。

 絶たれる望と動きを失う我の視界、その象徴的絵画をみてみたい。重みと力を失った、乾いた麺の様な固い線が我の身体を張り巡る。

「我は——————————を売る」

「では、そなたへのおくりものをさずけよう」

 雫は微笑し、北を指さして言った。

北極点ノースポールへ向かえ。そこでわかる」

 

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