第51話 世界は、きっと美しい。

 私は、この世界には我欲しかないって、思ってた。


 正義とか善悪なんて綺麗事で、現実はただ長いものに巻かれるだけ。



 でも、本当の現実はそんなに単純じゃなかった。


 正義とか善悪ってのは、本当にあって、人の心にこびりついている。


 約束を破ったり、人に迷惑を掛けたら罪悪感を持つ。


 その時の心はずんと重たくて、気持ちも沈む。


 そして、自責の念に駆られる。




 波のように雲が折り重なった真っ白な空。


 さわさわと吹く風。


 口ずさむ歌をかき消す、大きな雨音。


 走る車のライトの照らされた雨の滝。


 落ちていく夕陽。


 レンガの上にぶら下がる藤の花。


 公園の中に咲く野花。


 道端にできた雑草の花道。


 木の中から飛びだっていく鳥。


 太陽にギラっと照らされた水たまり。


 昼時の水色の空に浮かぶ白い小さなお月様。


 道を歩いたときにすれ違った人のいろんな表情と感情。


 読後感の半端ない、心に響く小説。


 つい口ずさむ心に染み付いた歌。


 太陽に白く照らされた誰もいない校庭。


 勝利へとがむしゃらに向かていく青年。


 真っ白に染まった空に溶けていく夕焼けの光。



 この世界には、美しい部分がたくさんある。


 だけど、この世界には心が抉られるほどの汚い部分もあった。


 そして、定められた運命からは抗えなかった。


 信じていた、最後の希望だったことを裏切られた。


 やっぱり私は、そんな世界を心の底から美しいだなんて言えない。


 でも、この世界は美しい、って。


 そう言っていると、心が仄かに温かくなる。


 あの世界のことが蘇る。



 この世界が美しいって言葉が正しいかはわからない。


 ただのお呪い(おまじない)のようなもの。


 だけど、私はそう信じたい。



 ねえ、それでもいいのかな。端夜。




 心を仄かに照らすように美しく、星が瞬く。





「この世界は、きっと美しい」




 2つの声が風に流され、波に流され、世界の狭間に流されて、流星のように美しく重なり合った。


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世界は、きっと美しい。 千夜 褪寡 @minorisanada

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