休み時間は短すぎる

 展覧会が無事に終わって次の週。

 秋の気配が深まり、過ごしやすい気温になってきた。


 午前中の休み時間、ロマとルキの教室に、優雅に入ってきたのはシキだった。

 いつもシキは休み時間、自分のクラスにいるはずなのに、迷いなくロマの机まで歩いてくる。


「ロマ、ルキ、おはよう」

「シキ君おはよう。休み時間に珍しいね?」

「そうかな? ロマ、ちょっとこっち向いて」


 その穏やかな声に顔を上げると、シキの指先がすっと伸びてきて――


「……寝癖。ほら、跳ねてる」


 柔らかく髪を梳かれた。指が額に触れるたび、くすぐったくて心臓が妙に落ち着かない。


「これで大丈夫。……でも、あえて跳ねさせるアレンジも似合うかもね」


 にこりと笑う顔に、思わず息が詰まる。

「……っ、あ、ありがと。俺、癖っ毛だからあんまり気にしてなかった」


 声が震えているのが自分でも分かった。

 なんで……? シキ君、こんなに距離近かったっけ? 俺、顔赤くなってないかな……。


 隣に座るルキが気になってちらりと見ると、ルキは机の下で拳を固く握っていた。

 表情は変わらないけれど、そこに小さな棘のような気配を感じた。


 ルキ君……なんか怒ってる?


「シキ、わざわざそんなことで隣のクラスから来なくても……」


 低くつぶやく声が、妙に胸に引っかかった。

 けれどシキは、まるで気にしていないみたいに笑顔で答える。


「だって、ロマ達ともっと話したくて。僕は隣のクラスだし」

「それは俺だって話したいけど、シキは目立って落ち着かないからちょっとやだ」


 ルキが困ったように言う。


 ルキ君は、シキ君にもっと構ってほしいのかな……?


「そんなこと言われても、僕の好きなようにするからね。そうだ、ロマ。もし良ければ今度の選択授業、一緒に受けたいなって思って。……体育とか、どうかな?」


 何気ない口調なのに、その瞳は真っ直ぐ。

「えっ……俺と? 良いよ」

 不意を突かれて戸惑いつつも、ロマは頬が熱くなるのを感じながら答えた。


「ありがとう。楽しみだな」


 シキはそう言って微笑む。

 その優しい声音に、ロマの胸は妙に高鳴ってしまう。


 そのやり取りを黙って見ていたルキが、ふっと顔を上げた。

「……じゃあ、俺も同じ授業、取る」


 少し素っ気ない調子で、どこか拗ねたような響きがあった。


「それなら三人で一緒だね!」


 ロマは無邪気に笑ったが、ルキの視線はシキを意識するように鋭いように思えた。

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