水色の出逢い
ロマのパルフェ学園高等部入学式の日。
校庭の満開の桜が青空に映え、花びらが散り始めて道を薄桃色に染め上げていた。とても綺麗だ。
「学園生活、いっぱい楽しみたいな!」
ロマは少しの不安と、新たな学園生活への期待に心をおどらせた。
パルフェ学園では、基本的な授業のほかに、生徒それぞれが学びたいこと――スポーツ、農業、商業、美術など――多岐にわたる分野を自由にカスタマイズして学ぶことができる。
ロマは美術部に入って、たくさん絵を描こうと決めていた。キャンバスに向かって色を重ねている時間が、とても楽しいからだ。
講堂へ向かって歩いていると、女子生徒たちの騒ぐ声が響き渡っていた。
「ねぇ、あの人すっごく格好良くない?」
「やばっ! イケメンすぎ!」
騒ぐ女子はちょっと苦手だが、“イケメン”という言葉には少し興味を引かれ、ロマは声のする方へ振り向いた。
そして思わず息をのむ。
心地よい風とともに、桜の花びらをまとったような男子が歩いてくる。
紫がかった桜色の髪が風にふわりとなびき、耳にかける仕草すら気品に満ちていた。まるで桜の精霊かと見間違えるほどだ。
なんというか……住む世界が違うような。
穏やかな表情の紫色の瞳と、一瞬だけ視線が合う。
「うわぁ……今日から俺も同じ学校に通えるなんて、幸運だな。でも、俺、場違いなんじゃ……」
視線はその桜の精霊のような男子の後ろ姿に釘付けになり、足が動かない。
そろそろ講堂に行かなきゃいけないのに。
やっとの思いで心臓の高鳴りを抑え、ロマは急ぎ足で講堂へ向かった。
入学式が始まり、新入生代表の挨拶で、さきほどの桜色の髪の男子が壇上に立った。
名前はシキというらしい。
「この度、新入生を代表してご挨拶申し上げます。パルフェ学園の名に恥じぬよう、皆と共に学び、成長することをここに誓います」
シキの美しい所作と、穏やかで落ち着く声色から紡がれる言葉は、ロマだけでなく、会場の全員を魅了した。
柔らかい雰囲気も相まって、すぐに生徒たちの注目を集めていた。
拍手が鳴り響く中、シキが挨拶を終えて席に戻る際、ロマの方を見た。
シキと視線が合った、と周りの女子生徒たちがひそひそとささやき合う。
けれど、よく見るとシキの視線はロマの隣の男子に向いている気がした。
隣の男子は、前髪が長くて目が隠れ、顔立ちはよく見えない。
眼鏡をかけていて、肩より少し下まである水色の髪は艶やかで、さらさらとしていた。
眼鏡の奥でちらりと見えた、ラベンダー色の片方の瞳が鋭くロマを捉えた。
あれ……何だろう、どこかで見たことがあるような?
「……何?」
無愛想な声に、ロマは慌てて目を逸らす。
「ご、ごめん! じろじろ見ちゃって……」
とっさに謝った。
シキが隣の眼鏡の男子を見ていたことが、なぜか心に引っかかっていた。
入学式のあと、クラスで自己紹介の時間があった。
教室は初対面のクラスメイトたちの声と笑顔で賑やかだ。
ロマは新しい環境に胸を躍らせながらも、先ほど出会った桜色の髪の少年――シキのことが頭から離れなかった。
クラスが違うのが少し残念だ。
入学式で隣だった水色の髪の男子は、クラスでもロマの隣の席だった。
自己紹介の時間、彼――ルキは短く
「ルキです、よろしくお願いします」
とだけ気だるげに言い、すぐに席に座った。
「前髪長いな」
誰かがささやく声が聞こえた。
前髪が長いため、眼鏡の奥の表情はほとんど見えない。とっつきにくい印象だ。
けれど、ロマの目はルキの机の落書きに釘付けになった。
そこには、流れるような線で描かれた鳥の絵があった。
羽の細かな描き込み、動きを感じさせる翼。
素人とは思えないほど巧みだった。
絵……めっちゃ上手いな。
ロマは心の中でつぶやき、ルキに対する好奇心が芽生えた。
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