戻ってきた時、1番会いたい人はいなかった

百合 一弘 ーゆり かずひろー ANSW

第1話

20XX年 日本


もう、ここに来させられてどれぐらい経つかなんて聞かれても分からない。だって、カレンダーないし、スマホの電源切れたし、私の周りには誰もいないから。そりゃ分かるわけなくない?


都心だと狙われるから安全のためにこんなド田舎にあの子と離れてまで来たのに結構な被害に遭うって皮肉すぎない?


ある日突然、ピカッって光って視界が真っ白になって目を開けたら辺り一面が焼け野原になっていた。なんか大規模なマジックに巻き込まれた気分。


日本に残っていた数少ない森林が焼き尽くされた。結構好きだったんだけどね、この森。あの子と一緒に暮らすにはいいかなって思ってたけど残念。


それ以前に火傷が痛すぎた。でも、顔は大丈夫だった。背中が痛くて仕方なかったけど、もう治ったのかな?痛みは全く感じなくなってる。


ベタベタした黒い嫌な雨が降ってきて髪がベットベトになったけど雨のおかげで流されたから綺麗になってる。これならあの子に見られても大丈夫。


背中の火傷で済んだのはお腹空いているのを誤魔化すために丸まってるのがよかったんだろうね。腕と足で顔は覆われてたし。不幸中の幸いってやつ?


よかったよ、顔がただれたら気がついてもらえないじゃん私だって。それは困る。足がなくなるよりも困る。


いや、足がなくなるのも困るな。ここの地域がこんな惨状になってるって知ったらあの子が心配するに決まってる。だから、私はあの子に会いに行かないといけない。


足がなくなったら腕なりなんなりで行けばいいんだろうけどさ、絶対遅いじゃん。私腕の筋肉がすごいあるわけじゃないし。一秒でも早く会いにいきたいんだよ。てか、手で移動してたらテケテケだっけ?そんな名前の妖怪みたいじゃん。


もう、最後にあの子の顔を見たのいつだったかな。日付もわからないから大雑把にしかわからないけどもう半年は余裕で超えてるのは分かる。


あっ……ってことはあの子の誕生日過ぎちゃってる可能性もあるじゃん。尚更急いで行かないと。誕生日プレゼントにあげられそうなものあるかな。


綺麗な着物もないし……でも今なら喜ばれるのはあれかな。食べ物かな。保存が効く漬けられてるものとか。それともレトルト食品……?


あっそれはだめか。軍隊に回収されてるからあるわけないんだった。


会いに行かないと、こんな惨状になっているのはここらへんだけだろうし。


そう信じて、何日も太陽の方向を頼りに歩いてるんだけど、景色は全然変わらない。被害的に考えて爆心地に近いと思ったけどそうでもないのかもしれない。


そうなると結構広い。もう一週間ぐらい歩いているはずなのに景色は全く変わらない。どんだけでかいの使ったんだよ。普通になんかの決まりに違反してない?なんか民間人攻撃すんなって感じのやつあった気がするんだけど。


まあ、もう遅いんだけどさ。この惨状じゃ復興に時間かかるよ。結構前にあった第二次世界大戦の被害超えてるよ。これこそ文明崩壊みたいなんかどっかのSF映画にありそう。


もう、暗くなってきちゃった。本当に東京遠すぎない?そんなに怪我重症だったのかな。もう関東とかに入っていい頃だと思うけど、惨状は変化なし。ここがすでに関東なら日本まずいよ。だって大都市東京だよ?


それはないだろうけどさ。だって真っ直ぐ歩けてるわけないし多分多少は遠回りしているから着かないと信じたい。だって、それじゃあの子が生きてるか怪しいじゃん。


それは本当に嫌だ。だって、だって、もしそうだとしたらだよ。だったらなんであの子がいない世界で潔く死なないで生きてるんだって話。


まだここは中国地方っていったところだと思いたい。そうじゃないと被害がおかしいよ。そんな広大な地域にこんな被害を与えられる兵器存在しないはずだし。


それこそを何個も落としたみたいじゃん。そりゃまずいでしょ。


そ、それじゃあ、あの黒いベトベトしたのが黒い雨で私はガンになって死んじゃうってことになるじゃん。確かにピカッって白く光って大きな音がしたけど兵器なんて新しいの結構開発されてるって聞くし。


でも、嫌だよ。……だってそんな訳ない。核兵器は廃絶されたはずだもん。私はあの子といつまでも一緒に居たいためにここまで歩いてきたんだよ。それが無駄になっちゃうじゃん。ただの爆弾だって言ってよ。いっつも降ってきてるただの爆弾だって言ってよ。生きてればどうにかなる可能性があるんだから。


……私の感覚も狂ってきてるなぁ。爆弾のどこがだよって話。どれもこれもあいつらのせいだよ。なんでこんなこと始めたの?私はあの子に会えればいいけど、これ結構生活維持するのきついよ。どうしてくれるの。


蝉の声すら聞こえないし動物も見かけない。虫が恋しくなるレベルって相当だよ。本当に何してるんだよ。


「おっお嬢ちゃん……」


ああ、こりゃ重症だ。この……おばさん?お姉さん?おじさん?お兄さん?もしかしたら同い年かもしれない。まあ、もうわからないけど誰かさん。火傷で手が溶かされたガラスみたいになってる。声だって周りに音が皆無に等しいほどしかなかったから聞き取れたけど微風でかき消されそうなレベル。潰れてるから元々低いのか潰れて低くなったのかなんて分からない。


「どうしたんですか? 行きたいところあるなら道中なら連れてってあげる」


「ひっ、兵……庫。さっ最後にぃ……息子に会いたい……」


道中だ。東京の途中で寄り道できる。ついでに送り届けるか。結構近いんじゃないかな。ここが中国地方だから結構。


「東京に行くから、道中だから連れてくよ」


「なっ、何を言ってるんだ……お……嬢ちゃん。ここは……」


発せられた言葉に耳を疑った。目の前の人はこう言ったの。


「東京だよ」


その言葉を最後に目の前の人は力尽きた。でも、私はどうでもよかった。その言葉を聞いた時に再び周りを見るとかつて住んでいた街にいやというほど重なった。


あの子と出会った高校、あの子と花火を見た場所、あの子とデートに行った場所。


あと1kmぐらいしたらあの子の家がある場所だった。


嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ……


だって、中国地方があんななのにこんな惨状になってるわけない。東京がこんなになってるわけがない。


だって、こんななら、あの子が____


私はあの子の家がある場所に駆け出していた。


違う、嘘だ。嘘だった。私がここだと思って足を止めた場所は、あの子の家があった場所だった。間違えるわけがない。ここだ。


「ねぇ!! 誰か!! いないの!! 返事してよ! 明日香!!」


後ろでコトッと音がした。足音かも、明日香が来てくれたのかもって思って振り返った。久しぶりに会えるから。


「明日っ!……え……」


後ろにあったのは炭化した、真っ黒な人形の何か____違う。


嘘だ。こんなの___


そう言い聞かせても、言い聞かせるたびにその炭化した人型の何かが____


見れば見るほど大好きな、大好きで、ここまで体を言うことを聞かない体を無理やり動かしてまできてまで会いたかった相手に重なる。


炭化しても分かる。この顔の形、体型、明日香だ。


明日香だった。見れば見るほど明日香にしか見えない。


「嫌だっ!! 嫌だっ! ねぇ、明日香じゃないでしょ! ねぇそうだっていってよ! ねえ明日香いるんでしょ! 出てきてよ!」


いくら叫んでも、いくら泣いても、その声は空に吸われるだけで誰からも返事が返ってこなかった____

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