休息志願

翌朝。

気だるさと心身の疲労で身体を起こすことすらきつくて。

けれど、登校しなければ、章裕に例の画像をバラ撒かれてしまうこともあって。

重い身体を無理矢理動かして、何とか学校の校門まで辿り着いたのだが…。


朝のHRの時間になっても、教室へ来ない俊を心配して、敦也と甲斐は生徒玄関へと様子を見に来ると、下駄箱に寄りかかる形で踞っている俊を見つける。


「俊!大丈夫か?」

「具合悪いんだったら休めばいいのに………」

「………」

「とりあえず保健室、行こう」


甲斐に支えられ、保健室へと向かうと、結依は驚いてすぐにベッドを用意し、そこへ俊を寝かせた。

熱を測ろうと額に手を当てようとして、俊が怯えているのに気付き、結依は顔を歪めてくるしそうに言った。


「架山君、もうこれ以上は無理よ。暫く椙澤君に従うのはやめなさい。私から言っておくから………」

「………大丈夫、です………。それに、そんなことしたら、先生も立場が危うくなりますから………何もしないで下さい」

「架山君………」


俊の言葉に、結依も一瞬自身の立場を考えはしたが、大事な生徒がこんなにも苦しんでいるのを見て、放ってはおけなかった。

それは敦也たちも同じで、このまま俊が傷つくのを黙ってみていられなかった。

とりあえず今は、俊を休ませて、「とりあえず、昼休みにまた話そう」といい、敦也たちは教室へと戻っていった。


「架山君、本当に無理しすぎよ」

「………すみません。でも、こうでもしなきゃ、誰かが傷つくから…。僕だけで、いいんです…。それで皆が無事なら……」

「自己犠牲もいいけど、相手のこともちゃんと考えてね。そうして守られたって、嬉しくないのも分かるでしょう?」

「………」

「今はゆっくり休みなさい。あとのことは、またゆっくり話しましょう」

「はい……」


そして昼休みまで、また保健室で仮眠を取らせてもらい、午前の授業の終わりのチャイムが鳴り響いた。


昼休み、昼食を持参して保健室に来た敦也と甲斐は、食べながら話し始めた。


「今後のことだけど、王様に暫く専属従者を休めないか、マジで聞かないか?」

「でも、たぶん無理だろうな。あの王様の性格じゃ、逆に過労死させても構わなそうだし………」

「………そうね。でもそうでもしなきゃ、架山君の心身が持たないわ。架山君も、いつまでも保健室で休んでられないでしょう?」

「そう………ですね。授業にはちゃんと出たいし、出席しなきゃ学校に来てる意味ないですから………」

「一応、その辺は私の方で、何とか保健室登校ってことで通させてもらってるから、大丈夫よ。問題は、奉仕活動の方ね」

「う~ん………こういう時、朔弥が居てくれたら、何か案を出してくれたんだろうな………」

「………」

「あ………ごめん………」

「いいよ。朔弥も、ずっと我慢してたんだし。聖の件がなかったら、力になってくれてただろうし」


咄嗟に朔弥の名前を口にしてしまった甲斐に、敦也も俊も責めはしない。

確かに、聖との件がなかったら、今も未だ一緒に居て、相談に乗ってくれたかもしれない。

聖も、調子に乗りすぎてしまっただけで、本来ならば優柔不断で騙されやすいと貶められることが多いのだ。

朔弥が一緒に居たからこそ、聖はいつも場を和ませるために、わざと羽目を外しているのだ。


だが、今更過ぎたことを言っても、もはやどうしようもない。

皆が意見を出し合っても、結局袋小路に嵌まり、フリダシに戻ってきてしまう。

そんな時、ふと俊が呟いた。


「お願い、してみようかな………?たぶん、聞いてもらえないかもしれないけど…」


俊のその言葉に、皆が驚いて俊に視線を向けた。


「大丈夫なのか?本当に、何を言い返されるか分からないんだぞ?」

「でも、このままじゃ何も変わらない。それに、水瀬もいつも言ってたから………。『諦めない』って………」

「………」


俊の口から、彩希の名前が出たことに、皆が改めて思い知った。

旬が今までずっと逃げなかったのは、彩希とのことがあったから。

彩希の想いが、今でも俊の心を支えてくれているんだと言うことを。

そして、その想いを俊自身が引き継いでいることを…。


「………分かった。王様に直談判だな、俺も一緒に行くよ」

「俺も。俊だけに、任せてられないよ。それに、何かあった時にすぐ対処できるやつがいた方が良いだろ?」

「ありがとう、二人とも。でも、逆に迷惑かけちゃうかもしれないけど………」

「今更だろ?友達が苦しんでるのに、これ以上黙ってられるかよ」

「そうそう」


そうして話はまとまり、俊と敦也と甲斐の三人で、章裕に直接専属従者の休息を志願することになった。

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