特権
気付いたときには、もう自分の部屋に戻っていた。
その後何をされてたのか、どうやって帰ってきたのかも、何も思い出せない。
ただ、弥月が心配そうに何かを言ってたような気もして。
身体のあちこちが痛くて、飲まされた薬がまだ残ってるのか、頭もクラクラする。
時刻はもう既に午前1時半を廻っていた。
翌朝。
いつも通りに登校した俊は、敦也と甲斐に声を掛けられた。
「おはよう、俊。何か調子悪いのか?」
「………別に、何ともないけど」
「そうか?でも、顔色ちょっと悪いぞ?」
「熱でもあるのか?」と甲斐が心配して俊の額に手を当てて。
その時、一瞬だけ俊は身体をこわばらせたが、甲斐は気付くことなく、「熱はないな」とそのまま手を離してくれた。
しかし、敦也は気付いたが、敢て何も言わなかった。
王様のことで、何かあったのかもしれない、と、直感的に思ったのだろう。
えれど、どう言えばいいのか分からずに、見て見ぬふりをするしかなかった。
それでも、俊にとっては、ふたりに何も話さなくてすむので、丁度良かった。
(言えない………。ふたりには、昨日のこと………)
不安が過ぎりながらも、心の中で安堵する俊。
いつも通りを装い、ふたりに心配掛けまいと、気丈に振る舞う姿が、敦也にはどこか悲しく思えて。
結局その日は、何事も無く平穏な日を送ることが出来た。
筈だった。
その日の午後、体育の授業前で着替えているときに、決定的な失敗をするまでは。
更衣室で皆が体育着へ着替えてる中、俊たちも隅で着替えていた。
その時だった。
後ろ側にいたクラスメイトが、気付いたことを言った。
「おい架山、ソレな~んだ?」
一瞬、何のことか分からず、俊たちは顔を見合わせた。
そして甲斐がちょうど俊の後ろにいたので、気付いてしまった。
ちょうどシャツの襟で隠れてたこともあって、今まで分からなかったが、俊の首筋に、キスマークが付いていたのだ。
「俊、お前それ………誰に付けられた?」
「え?」
甲斐の言葉に、敦也もそれに気付き、顔をしかめた。
言われた俊自身は何も分からず、困惑していると、敦也が教えてくれた。
「ここ、跡付けられてる。やっぱり昨日、ナニカされてたんだろ………」
「っ!!」
自身の首筋を指さしてそう言うと、やっと気付いた俊は、慌てて首を隠すも、もう遅く。
クラスメイトたちは皆冷ややかな目で見ながらひそひそと話していた。
「マジで?」
「架山って、そっち系アリなんだ」
「誰だよ?相手は」
「ってか、ありえね~」
それは、昨日雅崇に付けられていたのだが、俊は意識を失っていたので、気がつかなかった。
そのことで、俊は意識を失ってた間にも、身体を弄ばれていたのを知って、愕然とした。
いてもたってもいられず、俊はその場から走って逃げ出してしまう。
「俊!」
「待てよ、おい!」
敦也と甲斐も後を追い、体育館と校舎との渡り廊下で追いつくと、俊の腕を掴んだ。
「っ!!いやっ!!」
反射的に、俊はその手を払いのけた。
直後、身体を震わせながら怯えた表情でふたりを見て、その場に座り込んでしまう。
敦也と甲斐は、俊を落ち着かせようと、手を伸ばすが、咄嗟に俊は怯んでしまった。
「俊………まさか………無理矢理されたのか?」
「………っ」
敦也の言葉に、俊は声を詰まらせた。
その反応で、ソレが本当だと確信して。
敦也は唇を噛み締めて、苦しそうに吐いた。
「そんなの………もう完全に犯罪だろ?」
「………」
「やっぱり俺、王様に話し付けてくる!」
そう言うや否や、敦也は立ち上がり、章裕の元へと行こうとして、慌てて俊が止めた。
「待って、敦也」
「何だよ、お前こんな事までされて、平気なのかよ?」
「………でも、………そんなことしたら、敦也もただじゃ済まないよ」
「そんなの分かってるよ。でも、このままじゃ俊もどうなるかわかんないんだぞ」
「………」
「俺、何も出来ないで俊が傷ついていくの、もうみてられない。確かにこの学園はどうかしてる!誰かが止めなきゃ、また犠牲者が出続けるだけだ。もうこれ以上、我慢できない!」
「………でも、どうやって止めさせるの?反発すれば、即下僕だよ?今の僕よりも、立場が悪くなるんだよ?」
「………っ」
確かに、俊の言うとおりだった。
今は俊が立場上、章裕に一番近いところにいるので、言うことを聞いていれば、何も手出しはされない。
現に、俊が章裕の言いなりになっていることで、今のところふたりに被害は出てない。
理由は、俊が持つ特権があったからだった。
【専属従者の特権】
・階級とは関係なく、王様・女王様に付き、従順であれば、願い事が言える
それは、寧音がこの制度を作ったときに決めた特権。
故に、俊は章裕の専属従者になった段階で、ある願い事を言っていたのだった。
『敦也と甲斐には、何もしないで欲しい』
妹の弥月にも…とも伝えたが、「願いはひとつしか聞かない」と言われ、悩んだ末にふたりのことを守ることにしたのだった。
本当は弥月を守る方が良かったのかもしれない。
けれど、弥月は弥月で、自身を守る術を知っていた。
実はあの後、弥月は寧音の専属従者に立候補していたのだった。
普通は女王様である寧音が指名し、専属従者にされることになっていたが、俊が、自ら王様である章裕の専属従者になると言うことがあって以来、特権欲しさに何名かの生徒が、寧音に専属従者になりたいと言う意見があり、寧音もまた「楽しそうね」と大いに歓迎し、ソレを受け入れたのだった。
そして偶然にも、今の寧音の専属従者が、弥月だったのだ。
そのこともあって、弥月は自身で身を守り、同時に兄である俊の立場がこれ以上悪くならないようにと、寧音に願っていたのだった。
結果的に、現状は俊が今の立場を守り続けることで、敦也たちに危害が加わることは
ないのだ。
そのことに気付いた敦也も、それ以上何も言えず、逆に俊に守られていることを知り、情けなく感じてしまった。
「でも、このままはやっぱりダメだよ。何か手を打てないかな………?」
ふと、甲斐がそう呟き、考え込んだ。
しかし、考えたところで、答えが見つかるわけもなく、結果的には現状維持で居るしかなかった。
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