エスカレート
「ずいぶんとご機嫌だな。良い夢見れて、幸せか?」
「………何のことですか?」
「とぼけんなよ。てめぇ、女子の一人とやたら親しそうにしてたじゃないか。お前の女か?」
「別に、そんな関係じゃないですけど………」
「否定はしないんだな…。じゃあ、もっと良い夢見せてやるよ。おい」
章裕が何かの合図をすると、入り口の戸が開き、彩希と数人の取り巻きが入っていくる。
「えへへ。ごめんね、架山君。へましちゃった………」
そう笑いながら謝る彩希に、俊は驚きと不安の入り交じった顔で、章裕を見つめた。
章裕はにやにやした顔でスマホを取り出し、二人にカメラを向ける。
何をさせる気だろう?と、俊はより一層不安になっていく。
「は~い、みんな注目~!こいつら下僕同士で付き合ってま~す!」
章裕の言葉に、その映像が生徒達のスマホに送られている事を知り、さすがの彩希も驚く。
「ほら、皆に見えるようにキスしろよ!」
そう言いながら二人は頭を掴まれ、無理矢理キスをさせられる。
その瞬間をスクショにして、「私たち結婚しました。子供100人産みます!」と、卑猥な書き込み加工され、全校生徒のスマホに送られたのだった。
そしてその写真は教師の目にも止まり、ふたりを「不純異性交遊」と見做し、重い処分が言い渡される。
「こんなの、絶対におかしい!なんで私達が罰を受けなきゃいけないの?」
「それにこんな事を、見て見ぬふりする教師もおかしいよ。明らかに私達が被害者って分かるじゃない」
渡された反省文を書きながら、彩希はぼやく。
俊は体育教師に体罰を受け、殴られた鳩尾の辺りを擦りながら「仕方ないよ、誰も王様には逆らえないから…」と、諦めたように呟いた。
それでも彩希は怒りを露わにして「納得いかない!」と机に拳を叩きつけた。
それからも日々エスカレートしていく嫌がらせに、ふたりの心労は溜まっていく。
それでも、彩希はめげずに毎日俊の元へ訪れては会話をし、明るく振る舞っていた。
「なんで………、そうやって笑えるの?」
「言ったでしょう?私は私の意思を貫くって。だから絶対に、負けちゃダメだよ」
そう言って微笑む彩希は何処か弱々しくて、俊は胸が苦しくなった。
いつも庇い続けてくれる彩希に、自分は何も出来ないことを、もどかしく感じていた。
そんな二人の姿に、章裕はすべてが気に入らず、これ以上二人が幸せそうな顔が出来ないような、なにかを企んでいた。
それは、彩希に対して、二度と出しゃばった真似が出来ないように、章裕が考えた、最悪な出来事だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます