悠々往々災竜紀行
兎鼡槻《うそつき》
第0頁目 いくらって美味しくない?
コンビニのおにぎりは美味しい。特にいくら。ちょっと高いけど、それでも食べたくなる。
私立
そんなフツメンの俺は帰宅部だ。運動は授業だけで楽しみ、本も書かなければ、バンドも組まないし、絵を書いたりもしない。俺はそれでいいと思っていたし、これからもそれでいいだろうと思っていた。
もう散りかけの紅葉を見下ろしながら、ズズッ……と紙パックの紅茶を飲み干し目を細める。俺には焦りがあった。それは卒業後の事だ。
進学? 就職? 家は中流家庭だ。適当な大学を選んで可能な限り学生でありたい。問題は担任の加山だ。奴は今どき珍しく熱いハートを持っている。良い先生だとは思うが、俺みたいな奴とは相性が悪い。納得させる理由を考えるのも一苦労だ。
渋い顔をしつつ唸る俺に、脈絡の無い声が掛かる。それは超絶美少女の正統派幼なじみヒロインの挨拶ではなく、
「えっ!? あれ? もうそんな時間だったっけ!? やっべ! 次は科学実習なのにっ!」
理科委員でもある俺は、実習の授業前に準備をするという役目を放棄した事を
それは流石に嫌だ。せめて教室内で寝ていたい。
その焦りは、俺の人生にとって節目をもたらすミスを誘発する。急いで思い切り立ち上がると、地面に置いてある財布とスマートフォンをそれぞれ尻ポケットと内側の胸ポケットへしまった。それはもう熟練の技だ。今回だってなんの滞りもなく行われるはずだった収納作業は、財布を尻ポケットにしまった後に異常が起こる。携帯電話の
一昨日買ってもらった念願のニュースマホ。データは移し替え終わり、元の携帯はもう中古屋の棚だ。さっきやっとホーム画面をカスタムし終えたんだ。貼ったフィルムはラウンドエッジの強化ガラスフィルムで、カバーも本革のを選んだから諭吉さんが二人も
自分は落ちてはいけないという危機管理意識の中、授業への焦りと携帯を確保せねばという焦りが俺の背中をほんの少し前に押した。それによる重心の移動は俺を
浮遊感、強風、恐怖、抵抗、衝撃。
騒がしい校舎横の事など知ったことかと、おにぎりの包装は風で走りだす。まるで縛り付ける物はなくなったと言いたげに。
*****
私立
フェンスはある。しかし、彼のお気に入りである出入口の屋根の上にフェンスはない。彼が自由を欲していたのかは誰も知らないところだ。彼は
後日、この事故が不気味な自殺と悲劇的なニュースの裏で
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