死神の救世主

東井タカヒロ

死神との出会い

 荒い息と強く打つ心臓の鼓動が聞こえてくる。背中を切り裂かれ、出血していく。

 僕は今、死神に追われている。


 

 どこから来るか分からない恐怖と逃げないといけない気持ちが混在している。

 ほんの数分前まで友達と一緒に遊んでいて、今日も楽しく平和な一日を送るはずだった。

 何故こうなったかは分からない。今は逃げるの一択のみ。

 「どこに逃げるのか教えてほしいね」

 後ろから耳元で囁かれたその声は酷く冷たく恐ろしいものだった。

 急いで振り返ると不敵な笑みを浮かべた死神が今にも僕を殺そうと待っていた。

 「鬼ごっこは楽しかったよ」

 音速の勢いで振り降ろされる鎌は自分の力ではどうにもならない死を確信するほどだった。

 咄嗟に目を瞑ると、次の刹那、金属同士のぶつかる音がした。

 恐る恐る目を開けると鎌の刃は僕に当たる直前で止まっていた。

 そして、その刃を止めているのは、僕を追いかけている死神と、同じ黒いコートの奴だった。

 「珍しい人が来たもんですね」

 まるで対立しているかの異様な空気が流れる。

 「これは俺が助ける」

 同じ死神じゃないのか!?

 「あなたのお願いでも聞けませんね」

 僕に向けられてる鎌の力が大きくなる。

 それなのに少しも微動だにせず片手でそいつは受け止めていた。

 しばらく見つめあった後、「降参、参りました」

 そう宣言すると僕に向けられてた鎌が離れていく。

 「早く冥府へ帰れ」

 「言われなくても騎士が駆けつけてくるまでに帰りますよ」

 そうして僕を追いかけていた死神は暗闇へと消えていった。

 僕は安堵で張り詰めていた何かが切れ、そのまま倒れてしまった。

 「おい、大丈夫そうか」

 僕はそのまま意識を失ってしまった。

 目を覚ますと病院にいた。

 「起きたか。大丈夫そうだな」

 ベットに隣には僕を死神から助けてくれた人が座っていた。

 「さっきは助けてくれてありがとうございます。僕の名前は佐藤紅魔っていいます」

 「紅魔君。君は死神が見えるのかい?」

 死神。見えるのを自覚し始めた頃は小4の時からだ。

 街中で人を切っている死神を目撃した時、周りの人達はおろか本人でさえ何事もなかったように通り過ぎた。

 切られた人は数歩先で死んだ。その日から勝手に死神と呼んだ。

 死神は同じような特徴をしていて、黒いローブと独特の不穏な気配がする。

 しかし――――。

 「見えます。あなたは死神なんですか」

 僕を襲った奴も独特の気配があった。

 だけど、この人には独特の気配がない。

 「死神だよ」

 「さっきのは……」

 「俺は冥府から追い出されたんだ。それ以来、人助けをしている」

 死神は冥府に所属し、魂を回収する。冥府を追い出されるということは死と同等の意味を持つ。

 「これでも、死神の中でも元No.1だったんだぜ」

 それでさっきの死神は引いたのか。

 「死神さん、あなたの名前は」

 「討魔。水木討魔だ。好きに呼んでくれて構わない。紅魔君、君はこれから俺と一緒に行動します。」

 なんでそうなった。よりによって命狙われてる死神と一緒なんて嫌だよ。

 「なんでお前と一緒に行かないといけないんだよ」討魔に理由を訪ねてみる。

 クソみたいな理由なら一発殴る。

 「君は死神が見える。普通は一度魂を回収出来ないとリストから外れるけど、死神が見えるなら話は別だ。死神が見える人間は脅威でしかない。だから徹底的に排除しようとする。普通はさっきの人なら見えない。だから俺が守ってやるのさ」


 理由はちゃんとあるみたいだな。だがまだ分からないところがある。



 「そのリストと脅威って」


 「リストっていうのは死神が持っている閻魔帳みたいなもので、殺す予定が入っている。脅威ってのは、人は死神になれるから。死神になる条件は2つ。死神が見えること。死神を殺すこと。この2つを満たすと晴れて死神になる。死神になると、追いかけられることも無くなるしね」


 人が死神になることが出来るなんて。

 しかも、追いかけられることも無くなる。


 今の僕に出来る唯一生き残る道。


 「しばらくは絶対安静だから動けないけどね」


 まずは体を直してから死神を討伐しに行こう。僕が生き残るために。

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死神の救世主 東井タカヒロ @touitakahiro

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