人知を超えた怪物
エミリーに迫る牙
七キロ地点を滑走する佐々木の船が突然の震動を受ける。
「な、何だ!?」
船室にいた佐々木を初めとする三人もそれぞれバランスを崩した。
「くっ、俺が思っていた通りだったか…。」
浩靖はエミリーを一瞥して船の後方へと回る。
「そ、そんな…。あの毒液を受けて生きてるはずが…。」
エミリーも信じられない表情を浮かべて浩靖の後に続いた。
後方に引っ張っていた黒い悪魔の遺体が無くなっている。
「江原~!網を上げてくれ!」
「は、はい!承知しました!」
孝之が慌ててクレーンを上げると、サメを包んだ網がズタズタに引き裂かれていた。
「これで決定的だな小娘。奴はまだ死んでなかったようだ!」
「し、信じられない…。生物学的に不可能だ!」
「黒い悪魔は普通じゃねぇって事だ!さっさと奴の位置を探れ!」
浩靖はスペアの散弾銃を組み立てて、戦闘体勢に入った。
気を取り直してエミリーは発信器を辿っていく。
「今進んできたおよそ二キロの地点にいるようだが、動いていない…。」
「馬鹿な…。サメが動かねぇなんて事はないぜ。」
「だったらやはり死んでいるのかも…。網は何らかの原因で破れたとか…。」
「どう考えても内側から破られてるがな…。」
クレーンに吊り上げられたズタズタの網を横目に返答する浩靖。
「兎に角戻ってみよう。佐々木刑事Sorry!」
エミリーの指示で佐々木は船を旋回させ、二キロ沖に戻っていく。
「海底に沈んだのか…。私が見てこよう。」
ダイバースーツに酸素ボンベを装備するエミリー。
「え、エミリーさん!今の状況で海に潜るんですか?あまりに無茶ッス!」
「ご心配有難う江原君。だが、あの怪物の生死は自分で確かめたいのだ。」
船端に腰掛けるエミリーに命綱を手渡す浩靖。
「海底に奴の姿が無かったらすぐに戻れ。死にたくなけりゃそれ以上の深追いはやめろ!」
「フッ、もっと私を馬鹿にすると思ったが、意外な反応で拍子抜けたぞ。」
「そんだけ皮肉が言えりゃ大丈夫だな。気をつけろ。」
命綱を腰に巻き、ゴーグルを装着したエミリーは背中から海にダイブした。
発信器の位置の真下に降りていくエミリー。
降下してすぐに黒い悪魔の遺体など海底には沈んでない事を確認出来た。
正直信じられない事だが、それが現実だと思わせるかのように頭上を影が覆っていった。
「く、黒い悪魔!?」
エミリーは慌てて更に降下して逃げるが、彼女は更に黒い悪魔の信じられない行動を目にする。
黒い悪魔は彼女など見向きもせずに海底の岩に食らい付くと、砕けた岩の一部を咥えたまま上昇。
その先に停泊する船のモーター目掛けてその岩を吐き出したのだ。
岩は回転するモーターを破壊してしまった。
凄まじい震動に船上の三人はそれぞれ転倒する。
「今度は何だ!?」
「な、なんてこった!今の衝撃でモーターがやられたみてぇだ!」
佐々木は完全に停止した船の操縦機器を拳で叩く。
異変に動揺する船上の三人に海面に顔を出したエミリーが叫ぶ。
「黒い悪魔は生きていた!奴が岩を運んで船のモーターにぶつけたのよ!」
「な、何だと!?」
「悔しいけど、あなたの読み通りだわ!黒い悪魔は生物を超えた怪物…。」
そこまで言ったエミリーにいきなり横から食らい付く黒い悪魔。
「エミリーさ~ん!」
「エミリーちゃんが…。」
落胆する孝之と佐々木。
浩靖はすぐに命綱をリールで巻き上げるが、その先端は黒い悪魔の牙に引きちぎられていた。
「くっ、小娘…。黒い悪魔!おめぇはこの俺が殺す!」
浩靖は散弾銃を手に立ち上がる。
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