【10 事件5.ご飯にボタン・事件編】

・【10 事件5.ご飯にボタン・事件編】


 とある給食中のことだった。

「わぁっ!」

 急に坂崎達也くんが叫んだ。

 何だろうとみんなの視線がそっちへ行くと、

「白米の上にボタンが乗ってる! 誰だよ! 誰が投げ入れたんだよ!」

 と訳の分からないことを言い出して、一体何なんだみたいな空気になっていると、坂崎達也くんは左右をキョロキョロしてから、隣の席の蒼井由奈さんを指差しながら、

「オマエ! そこのボタン無くなってる! オマエのボタンだな! 最悪だよ! 汚ねぇイタズラだな!」

 と声を荒らげた刹那、蒼井由奈さんは俯きながら、走って教室から出て行ってしまって、ぽかんとしている坂崎達也くん。

 徐々に怒りが込み上げてきたような顔をしてから、

「おれが被害者だぞ! 何なんだあの態度は!」

 とブチギレたところで、剣崎先生が、

「まあおれは全然分からんが何か事情があったのかもしれないしさ、一旦静かにしなさい」

 となだめて、その時はそれで終わったんだけども、昼休みになったところで即座に坂崎達也くんが私のところへ来て、

「今の分かってるだろ! 女子ってみんなこうなのか!」

 とまるで私を攻めるようにそう言ってきて、そんなぁ、と思っていると、航大くんが近付いてきて、

「依頼なら普通に聞くからさ、花譜に八つ当たりすんのやめろよ」

 キツめにそう言ってくれると、ちょっと坂崎達也も落ち着いたようで、

「でもさぁ! おれ汚いのダメなんだよぉ! 白米全部残したからぁ! いや潔癖症ってわけじゃないけどもさぁ! やっぱ汚いのってさぁ!」

 そうガックリとした坂崎達也くん。でも本当はそっちの気持ちのほうが分かる。

 多分流れとして、蒼井由奈さんのボタンで間違いないと思う。その後のリアクションも何かバレたって感じだったし。

 でも、と思って私は思っていることをそのまま口にすることにした。

「もしそんなイタズラをするとしたら、自分のボタンをちぎってそのまま投げるかな? 隠し持っているボタンでいいはずだと思います」

 すると坂崎達也くんが、

「突発的な! 衝動で! というか女子ってそういう時あんのか!」

「私は無いけども……」

 と答えておくことにした。

 航大くんは座っている私と立っている坂崎達也くんを物理的に離すように、航大くんが坂崎達也くんのお腹のあたりを軽く押してから、

「まあ何かこっちで考えておくから。もう話は分かったから。その場に全員いたからな」

 坂崎達也くんはまだちょっと納得していない顔をしていたけども、私から離れていなくなった。

 いなくなったところで、でも、って感じに航大くんが、

「いや坂崎の言うことが正しいんだろうけどもな、状況証拠的に。でも蒼井さんがそんなことするほうじゃないからなぁ。花譜はどう思う?」

 と二人っきりになったところで、またスクールカースト女子からヒソヒソ言われ始めてきたので、絶対私のことだと思って、私はできる限り小声で、

「また放課後。家で」

 と答えると、航大くんは何故か少し寂しそうな顔をしながら、

「そっか、そうだよな」

 と答えて、私から離れてくれた。

 そりゃ本当は航大くんと会話していたいけども、やっぱり周りの目が怖くて……もう一体どうすればいいのだろうか……。

 その後は授業&授業で、放課後になって、私は一人で逃げるようにダバダバ走って教室をあとにした。

 何か最近一段とスクールカースト女子である、九条渚さんからずっと睨まれている感じで。

 というか、本当に、聞き間違いだと思いたいけども、九条渚さんが私の近くに来た時に「調子乗んなよ」と口をついたアレ、私に言ったのかな……。

 何でこんなことに。片想いするだけでもダメなの? そんな調子に乗っているつもりも無いし。

 九条渚さんは結構陰湿という噂も聞くし、大胆にイジメてくるという噂も聞く。

 まだこの教室の中では無いけども、九条渚さんは既に女バスの一年生を仕切っていて、何人かイジメを苦に女バスを辞めているという話だ。

 バスケはプレー人数も少ないし、そうなりやすいんだろうなぁ、とかなんとなく思ってしまっている。九条渚さんがサッカーが好きならこんなことにはならなかったのかな。

 なんて、もう家に着いたわけだから、九条渚さんのことを考えることは止めよう。でも自分の家の中にいると悶々と考えてしまうので、私は外に出て畑の世話をし始めた。

 というかいっつも航大くんは畑をやろうとするから、外で待っていることが実際一番良いのかも、と思いながら、ミニトマトの苗の周りの草を抜いている。

 ミニトマトはそこまで強い植物ではないので、しっかり草を抜いてあげないと苗が弱ってくる。カボチャとかは強いんだけどもね。

 外用腰掛けイスに車輪がついていてそのまま移動できるヤツに座って、雑草をどんどん抜いていく。

 やっぱり無心でできることはいいね、と思いつつ、何か視線を感じて頭をあげると、なんと一瞬誰かが陰に隠れたけども、間違いなく九条渚さんで心臓が止まるかと思った。

 えっ? 女バスってまだやってる時間じゃないの? というか何で私の家に? 小学校とか別だったから、私の家なんて知らないはずなのに。

 小学校の時の同級生から聞いたのかな? 何なんだろう、すごく嫌な予感がする。私は畑の、野菜の隙間からじっとそっちを見ているわけだけども、どうやらもういなくなったみたいだ。

 念のため、隠れたほうへ足を運んで、外に出て見に行ったけども、完全に九条渚さんはいなかった。何だろう、私が疲れていただけで見間違いかな、そうあってほしい……と思いながら、また自分の家へ戻ろうとした時に後ろから航大くんの声がした。

「散歩帰り? ちょうど良かった! 早速まずは野菜畑のことからやっていこうぜ!」

 そう言って私の背中を優しくポンと叩いてくれた航大くん。きっと私が肩を落としていたからだ。陰気だったから元気付けてくれたんだ。

 そうだ、航大くんが私のことを助けてくれるはず、何かあれば必ず助けてくれるはず、そんな陰鬱になってないで今を頑張ろうじゃないか。

「うんっ、じゃあ今日はミニトマトの話でもしようかなっ」

 私と航大くんはそのままミニトマトの畑の前でしゃがみ、私は説明し始めることにした。

「ミニトマトって伸びてくると自分の苗の幹よりも大きくなっちゃって倒れてくるんだ、葉を広げ過ぎるというか」

「そうそう、保育園の時もそうだったよな。その時は何か近くに棒を立てて麻紐でギュッとしばりつけて」

「航大くんも保育園の時、覚えているんだね」

「そりゃそうだよ! ずっとそっから好きだもんな!」

 と笑顔で答えてくれた航大くん。

 そっか、航大くんもそっからずっと野菜が好きなんだ、と思って頷いていると、急に航大くんの顔がミニトマトのように真っ赤になっていき、

「いや! その! 野菜がな!」

 と妙にデカい声でそう言って、いや、

「そりゃそうでしょ、話の流れそうだったじゃない」

 と私が言うと、航大くんは妙に慌てながら、

「だ、だだだ、だよな!」

 と言ってDJなのかなと思ってしまった。まあいいか。

「本当は麻紐でギュッとしばっちゃダメなんだ」

「そうなの? そっちのほうがしっかり固定できるじゃん」

「例えば、この麻紐を見てほしいんだけども、茎の成長を妨げないように、ゆるく8の字で結ぶといいんだ」

「なるほど! しっかり丸く抑えつつ、太くなる余力のスペースを残すということか!」

「そうそう、意外と難しいんだけどね、8の字に結ぶのって」

「じゃあここ! ちょっと倒れそうになってるから、俺も棒というか支柱と結んでみていいかな!」

 私は「いいよ」と返事しながら、倉庫から麻紐とハサミを持ってきて、ちょうどいい長さに切ってから航大くんに渡した。

「8の字ということは、こういうことかな?」

 と言いながら結ぼうとするわけだけども、余裕の部分が大き過ぎてしまい、広がった茎がちょっとぐらぐら過ぎになってしまっている。

「紐の結び目は支柱側にね、あと結びづらい時は無理して同じ体勢でチャレンジするよりも、自分の位置を少し変えたほうがいいよ」

 航大くんは私と並んでいた位置から畑の後ろに回って、支柱に近いほうから結び始め、ついに、

「できた! これなら茎もつらくないだろ!」

「すごい! 私はそんなに早くできなかったよ!」

「そりゃ花譜がアドバイスしてくれるからだろ、ありがとう、また何か賢くなったイメージだっ」

 そんな会話をしてから、私は、

「じゃあちょっと赤くなっているミニトマトを収穫して、家で食べようかっ」

「収穫させてもらえるなんて嬉しいなぁ!」

 と満面の笑みで言った航大くん。一緒に収穫を軽くしてから、家の中へ入っていき(勿論、航大くんの「おじゃまします!」を聞いて、猫ミームくらい心が踊っている)、台所で洗ってから、

「じゃあ今日は生で食べみようか」

 と二人でつまむと、航大くんが、

「甘い! 本当ミニトマトって果物だよな! ジューシーな果汁が口いっぱいに広がって本当に美味しい!」

 私も食べて確認。ちゃんとミニトマト、というかトマト系の爽やかな青い香りもして、美味しい。

 もう何度も食べているけども、なんというか航大くんと一緒だとなおさら美味しい、と思ったところで航大くんが「んんっ!」と言ったので、何だろうと思っていると、

「危ない! 台所だから助かった……口から果汁が飛んでしまった……でも大丈夫! ちゃんと水道のところに飛んだから汚くない!」

 と言いながら水を流した航大くん。別に航大くんが飛ばした汁は汚くないけどな、と考えてしまうのはちょっと変態過ぎるからやめよう。

 でもまあ生のミニトマトを食べただけなので、もう何か時間が余ってしまったみたいな感じになったので、私は、

「じゃあ一緒にテーブルで謎解きを考えながら、私が昨日つくったミニトマトの寒天ゼリー食べない?」

「ミニトマトの寒天ゼリー? いやでもミニトマトは本当に果物みたいだから合うかも! 食べる!」

 そうサムズアップしてくれた航大くん。

 私は冷蔵庫から二個取り出して、スプーンを食器棚から二本とって、航大くんの前に置いた。

 すると航大くんが、

「美味しそう! 頂きます!」

 と言って一口食べてから、

「皮が無いから口から弾け飛びづらいね! 皮無いと寒天と口の中で馴染みやすくて美味しい! 甘いし、ミニトマトの爽やかな香りも残っているし、本当に美味しい! これどうやって作ったのっ? というか皮ってどうやって剥くんだっ?」

「まず丸ごとオーブンで焼いて、皮が裂けてきたところで、ボウルに冷水を張って、そこにミニトマトを入れながら皮を剥いていくんだ。熱いからね。それをみりんで煮てから一旦皿に移して、鍋に寒天の粉と水を用意して、少しだけ砂糖で味付けして、最後にミニトマトのみりん煮を入れて固めるんだ」

「手が込んでいるなぁ……こんなすごいヤツ、食べさせてもらって本当にありがとう、花譜って料理が最高に上手いなぁ!」

 こんなに褒めてもらえるなんて嬉し過ぎる、と思ったところで、もしかすると、と思った、んだけども、これ言おうかどうかちょっと迷うな……。

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