【05 事件3.埋められたタオル・事件編】
・
・【05 事件3.埋められたタオル・事件編】
・
ある日の朝の時間、急に後ろから声を掛けられた。
「宮越さんも探偵クラブの一人なんだよね」
女子の声だったので、またここから嫉妬話を聞かされるのかなと戦々恐々していると、その子が私の正面まできて、
「わたしのお気に入りのタオルが埋められていた事件の犯人を捕まえてほしいの!」
と声を張り上げた岸本瑠々ちゃん。
良かった……事件の依頼だった……いや依頼があることはあんまり良くないんだけども。
じゃあ、と思って、
「航大くんのところへ行こ、行きましょうか」
と私が言うと、手でバッテンマークを作った岸本瑠々ちゃんが、
「ダメ! イケメンは緊張する!」
と私みたいなことを言い出して、じゃあ私があとで航大くん口伝てするしかないかぁ、と思った。
岸本瑠々ちゃんは饒舌に喋り始めた。
「西公園で遊んでいたら、わたしが通学用バッグの上に置いていたお気に入りのタオルがいつの間にか立て札の穴に突っ込まれる感じで埋められていたの! 酷いと思わない! 誰の嫉妬なんだろう!」
嫉妬と思っているということは、
「誰かに嫉妬されるような覚えがあるということ、ですか」
とつい同級生に敬語を使ってしまう自分にちょっと自己嫌悪していると、岸本瑠々ちゃんはデッカい声でこう言った。
「だってわたし可愛いし!」
「そ、そうですよねっ」
と相槌を打つことしかできなかった。だってまさかそんなザックリしたことを言うとは思わなかったから。
自己肯定感の高さ半端無いなぁ、と思っていると、岸本瑠々ちゃんが、
「とにかく! 犯人を見つけ出してギッタンギッタンにしましょう! 八田さんの時みたいに!」
「あっ、あぁ、はい……」
と圧に圧倒されたのもそうだし、八田さんの時みたいに、とか平気で引用するところが何だか怖かった。そう位置づけているんだ、的な感じ。
でもまあこれだけではなんとも分からないので、
「実地調査、というかあの、どこの立て札でどんな状況だったかということを、知りたいのですが」
「じゃあ今日の放課後! 一緒に見に行こう!」
と机に両手をついて、顔が迫ってきた。
あまりにも強い言葉に私は頷くことしかできなかった。
その後は何か軽く挨拶して、岸本瑠々ちゃんは自分の友達の輪に戻って言ったけども、私、ちゃんと会話できていたよね……ちょっとまだ心臓がバクバクいっている。
私はちょっと強めに溜息をついてしまうと、
「どうした? 何か会話していたけども」
という声が聞こえて、この声は、と思っていると、
「探偵クラブ案件なら俺のほうへ来てくれても良かったのに。こういう矢面に立つことは俺がやるって言ったじゃないか」
航大くんだった。
いやでも、って感じで、
「岸本瑠々ちゃんがイケメンはダメって言うから私が聞いたんだ」
とその通りに答えると急に航大くんは顔を真っ赤にして、
「イケメンってぇ! ……いや、あぁ、岸本が言ったんだよな……岸本が……」
と何か先細りの声でそう言葉を確かめるように言って、岸本瑠々ちゃんからイケメンって言われたことが顔赤くなるほど嬉しいんだとちょっと嫉妬してしまった。
そりゃまあ確かに岸本瑠々ちゃんは可愛いけどもさ。そんなあからさまな反応するなんて、やっぱり私のような陰キャ太郎はダメだよね……お風呂キャンセルして寝るしかないかもね……。
「とにかく、放課後に事件現場の西公園を見に行くという話になっているんだ」
「じゃあ俺、今日は何も無いし、一緒に行くよ!」
とサムズアップした航大くん。
勿論そっちのほうが有難いんだけども、岸本瑠々ちゃんのことを考えるとどうだろうか。
いやでも絶対いてくれたほうが単純に脳が二つあるわけだから、謎解き的にも良いし、会話的にも……いや、岸本瑠々ちゃんはむしろ航大くんがいたら会話できなくなる?
う~ん、でもなんというか、どう答えたらいいのだろうか、と考えていたら、私が喋るよりも先に航大くんが、
「じゃあそういうことで! 今日は昼休みは昼休みでいろいろあるから西公園で現地集合な!」
と言って颯爽といなくなってしまった。勿論同じ教室内にいるんだけども、自分から航大くんに話し掛けるのも勇気がいるというか。
だって何かまた女子の団体からの厳しい視線を感じるから。ちょっと会話しただけですぐこの嫉妬団子だよ。メンチにされて肉団子にされちゃうこと不可避だよ。航大くんはちょっと何かそういうことに鈍感そうだからあれだけどさ、もう本当私じゃなきゃ見逃しちゃうね、この嫌視線(いや・しせん)。
そこから授業&授業&昼休み&授業で放課後になり、私は宮本瑠々ちゃんと一緒に西公園へ行った。
西公園の、その埋められていた立て札のところに来たところで、遠くから声がした。
「間に合ったっ? 花譜!」
航大くんが走って駆け寄ってきて、ちょうど良かったぁ、と思っていると、岸本瑠々ちゃんがビックリしながら私のほうを無言で見た。
ここは言わないとなぁ、と思って、
「ゴメンなさい、探偵クラブはその大半が航大くんのことだから、来る予定だったんだ」
口をあんぐりと開けている岸本瑠々ちゃん。でもまあしょうがないよね、そういうことだもん。そういう話じゃない。最初から。探偵クラブをやるって言い出したのは航大くんだから。
航大くんが私の隣まできて、
「じゃあ早速事件のこと教えてほしい」
と息が一切切れずにそう言うと、岸本瑠々ちゃんが明らかに目をハートマークにしながら、
「はい!」
と言うと、そこからまたしても饒舌に喋り出した。
「この立て札の足元というか、根元に、お気に入りのタオルが挟み込まれるように埋められていました! 通学用バッグの上に置いてあったはずなのにです! 絶対誰かのイヤガラセだと思います! せっかくのお気に入りのタオルなのに! 今は家でお母さんが洗っています!」
その立て札というものを私はしっかり目視する。
『犬のフン禁止』と書かれた木の立て札だ。市役所が設置したというよりは誰かが勝手に設置したような、手書きの立て札だった。
「これかぁ」
と言いながら航大くんがその立て札を触ったその時だった。
「わぁっ」
と航大くんが声をあげると、その場でよろけたので、何しているんだろうと思っていると、すぐさま岸本瑠々ちゃんが航大くんの手をとって、
「大丈夫っ?」
と言って、支えてあげた。航大くんは少し照れ臭そうにしながら、
「ありがとう。立て札にチカラ入れたら思ったより傾いちゃって」
「フフ! 可愛い!」
と岸本瑠々ちゃんがハッキリとそう言って、いや何がイケメンはダメなんだぁ……と、心の中で呆然としてしまった。
全然イケメンと対等に渡り合ってるじゃん、覚醒した少年漫画の主人公かよ、いや、多分元々そうなんだろうなぁ、イケメンがダメって何か、ポーズみたいなことだったんだ。
何かめっちゃアピールするように、可愛い子みたいな目振り手振りで、
「ちなみに通学用バッグはこの辺に置いていましたぁ」
と甘ったるい声でそう言っていて、何なんだ一体、と思ってしまった。
航大くんはそんなことに一切動じず、普通に相槌を打っていてイケメン過ぎると思った。
何かそんな感じで終わりそうな空気が流れたところで、岸本瑠々ちゃんが、
「航大くぅん、今から暇ならさ、一緒に喫茶店とか行かなぁい?」
とか言い出して、コイツ、もう私のこと見えてないんじゃ、と思って、さすがに酷いと思って、一口挟むことにした。
「あの、風って吹いていましたか? その時」
すると岸本瑠々ちゃんはちょっと不機嫌そうに、
「確かに勢いよく風は吹いていたことはあったけども、そんな風の勢いで穴の中に押し込まれるように入ったりしないよ?」
と若干小バカにするような言い方で言われてしまい、私は委縮してしまった。
すると航大くんが、
「俺は今日、家で勉強する予定だから喫茶店とかは無理だよ」
と答えて、岸本瑠々ちゃんはあからさまにガッカリと肩を落とした。
そこからはまあバイバイといった感じで、岸本瑠々ちゃんとは別れることにした。
すると航大くんが、
「俺は特訓も兼ねて走って帰るから! じゃあな!」
と言って航大くんは素早くその場をあとにすると、岸本瑠々ちゃんは残念そうな顔をして、チラリと私のほうを見てから、
「じゃね」
と本当に虚無レシピみたいな顔をしながらそう言って家路についていった。
ぽつんとその場に残された私。いや私も帰ろう。
というかそっか、航大くんと一緒に帰れると思ったら、航大くんは一人で走って帰っちゃったか、でも一緒に帰っているところ誰かに見られたらそれはそれで面倒だし、いいか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます