【20 魔物の質と量】

・【20 魔物の質と量】


 最近はまた新しい場所、トロン渓谷へ行き、魔物をバッサバッサ倒していた。

 情勢的に魔物の量も質も増えているという噂もあるけども、まあ私とリュウにとっては余裕だし、いろんな素材が手に入ってまあ楽しいねって感じだ。

 村のほうも戦闘服にみんな慣れて、強い魔物を倒して、素材を残してくれているので、帰ってくるとまた思いもしない素材がもらえて結構嬉しい。

 そんな時だった。

 トロン渓谷で見たくもない顔が私とリュウの目の前に現れた。

「おい、梨花、オマエを始末することにした。正義騎士団に入って我らの仲間にならなかった自分を恨むんだな」

 神官だ、あのジジイ神官だ、変に毛量が多くて髪を染めすぎていて変な質感になっているシワだらけ神官だ。

 剣士は早速こっちへ向かって剣を抜いたので、私は魔法使いの服からエイリーの服に着替えた。

 リュウも機動力重視で風の魔法使いに変更した。

 こうすればリュウは私と連携することができるから。

 今回、リュウは毅然とした態度で、

「何で梨花を始末するという話になるんですか」

 と聞くと、神官は、

「話す時間も無駄だ!」

 と言いながら持っていた杖を私とリュウのほうへ向けると、向こうの剣士と格闘家と舞踏家が一斉にこっちへ飛び掛かってきたけども、まあ遅い。

 エイリーの神速を使ってしまえば、もう相手の動きはスローモーションで。

 その動きに唯一ついてこれるのは、リュウの神風魔法のみ。

 私とリュウで一人ずつコンビネーションキックを浴びせる。

 浴びせている最中もまだ相手は喰らっていることにさえ気付いていない。

 その間に、三人分フルボッコにしてやったところで、神速モード解除。

 すると急に喰らったような顔をしながら三人が吹き飛んでいった。

 神官は何が起きたのか分からないといった表情で私とリュウのほうを指差しているだけで。

 三人の叫び声でやっと気付いて振り返ると、その場に膝から崩れ落ちた。

 さて、

「あとはアンタだけだけども、まだやる?」

 神官がまたこっちを振り返ってから、

「でも! でもだ! オマエがこの世界の魔物増量の理由なんだよ!」

「魔物増量ってそんな10%増量中のスナックみたいに言われても。そんなんただの言いがかりじゃん」

 私が呆れるようにそう言うと、リュウが少し屈んで、膝から崩れ落ちた神官の視線を合わせながら、

「何かちゃんとした根拠があるのなら教えてください」

 と言っているんだけども、視線を合わせるって幼稚園児にするヤツじゃんと思ってちょっと笑ってしまった。

 いや勿論リュウにそういう煽りみたいなことは無いんだろうけども。リュウは私と違って性格が良すぎるから。

 神官は苦虫を噛み潰したような顔をしてから、なんとか立ち上がってこう言った。

「ワシたちの占い師はオマエに魔物増量の手掛かりがあるという占いが出た。だから梨花を始末しに来たんだ。さすがに魔物の量が多すぎるんだ。どうにかしないといけなくてな」

「そっちの占い師がポンコツなだけじゃないの? 言いがかりも言いがかりだってば」

 と私が溜息交じりにそう言ったところで、リュウがこう言った。

「分かりました。では梨花がその理由じゃない証明をしましょう」

 どうするんだろうと思っていると、

「梨花、占い師の恰好になってください。それで占ってみましょう」

「そうか、私が自分でやればいいってことか」

 すると神官がすぐに、

「いやわざと違うようにするに決まってる! せめて男のほうがせんか!」

「俺は梨花よりも魔力が弱いですし、梨花はわざと違うようにするような女性ではありません」

 まあできたら、わざと違うようにする女性だけどもな、と思いつつ、私は木陰に移動して占い師の恰好に着替えた。

 この恰好は初めてだけども、シースルーの口を隠す布が妙に色っぽくて、さらにタイトめの上半身・下半身がカッコイイ。

 最後に煌びやかな帽子をかぶってセット完了。

 戻ってくると、リュウが水晶を渡してくれたんだけども、実際どうすればいいんだろうか?

「リュウ、これってどうすればいいのかな?」

「多分水晶に魔物増量の原因は誰か聞けばいいんじゃないですか」

 ずっと魔物増量という言い方しているけども、だからそれはスナックなんだよな、と思いつつ、私は水晶を持って、立った状態で占うことにした。

 いや立ち飲みみたいな、立ち占いなんてみたことないけどな。

 まあいいか、

「水晶さん、水晶さん、魔物増量の原因を指差してください」

 と、何か、なんとなくこっくりさんみたいな言い方してしまった。

 私は占いとかあんまり信じないほうなので、知識が薄いため、結果漫画でありがちなこっくりさんになってしまった。

 でもそんな適当な占いでも水晶の中が何か渦巻きだして、リュウも神官も「おぉっ」と声を上げた。

 ニンテンドー64並のグラフィックがぐにゃぐにゃと動いているような感じ。

 一体どうなるんだろうと思っていると、矢印が出現し、その矢印は私に向いた。

 いや!

「私かい!」

 と叫んでしまった。これはもうドデカ声だった。

 多分間とテンポが最高だったんだろう。

 リュウにも神官にもちょっとウケてしまった。

 それくらいの声の張りだった。

 いやいや! そんなウケをしがんでいる場合じゃなくて!

「私っ? 私が原因ってことぉぉおおおっ?」

 するとウケ終えた神官が私のことを指差しながら、

「やっぱりそうだよ! オマエだよ! オマエのせいなんだよ!」

 私は水晶を地面に置いてから、

「いやいや! 私じゃないよ! 私じゃないよ! そんな陰で操ってないよ! リュウも知ってるでしょ! 私ずっとリュウと一緒にいるでしょ!」

 でも神官は一歩前に出て、

「いやでも今も矢印が指しているだろ! 寝静まったあとにどこかへ行ったりしていないか! この女は!」

 私と神官から鬼気迫る表情で話し掛けられているリュウは、何故か困惑しているというよりは何か考えているような顔だった。

 多分私よりも短気な神官が、

「おい! 男! なんとか言わないか!」

 と言うと、リュウが後ろ頭を掻きながら、

「でも、この矢印、ちょっとズレていない?」

 と言ったんだけども矢継ぎ早に、神官が、

「じゃあちょっと動け! 梨花! 水晶の周りをぐるぐる歩け!」

 こんなヤツに呼び捨てされる筋合いも命令される筋合いも無いんだけどもな、と思いつつも、私も気になっていたので、水晶の周りをぐるぐる回ってみると、水晶の矢印は常に私のほうを向いたので、

「やっぱり私かい!」

 と叫んだら、これもちょっとウケた。

 二周半したタイミングで、ギリギリ三周しなかったタイミングで声を上げたらウケた。

 いやちょうど食い気味みたいなタイミングじゃないんだよ。どうでもいいんだよ、私のツッコミが上手くハマった瞬間なんて。

 神官は何か興奮気味に、

「コイツで間違いないじゃん! 魔物増量は困るんだよ! せめて元の魔物数に戻せ! 予定が狂う!」

 私はどうしようという顔でリュウのほうを見ると、リュウは確信を得たような顔をしてから、こう言った。

「梨花、梨花が右手首に付けているブレスレットのほうを向いていますよ。この矢印」

「えぇっ!」

 私が驚いている間に、リュウは水晶を持って、私のブレスレットのほうに近付けた。

 このブレスレットはコスプレイヤー時代に初めてできたファンからもらったブレスレットなんだけども、リュウが水晶を持ってブレスレットに近付けると、間違いなくブレスレットのほうを指差していた。

「ど、どういうこと……?」

 するとリュウが神妙な面持ちでこう言った。

「もしかしたら魔物増量に関わっている人間からもらったブレスレットなのかもしれませんね」

 と言ったところでなんと目の前に十メートルはありそうな、巨大な怪獣のような魔物が出現したのだ。

「あわわわわ! 終わりだぁぁああああああああ!」

 そう神官が叫んだ瞬間だった。

 なんとその魔物は二秒も保たないまま、消えていった。

「えっ? どういう現象?」

 私がポツリと呟き、リュウは神官へ、

「こんなことあるんですか?」 

 と聞くと、神官は震えながら、首を横に振った。

 でも、この、さっきまでいたはずの十メートルの魔物からは倒した時のアイテムや素材が出現していて、倒した状態になっている。

 誰かが狙撃でもしたのだろうか、と思っていると、

「大丈夫ですか! 梨花さん!」

 という声と共に、なんと! あのブレスレットをくれたファンが目の前に出現したのだ!

「何で梨花さんがこの世界にいるんですか!」

 そう言って私に抱きつくように飛びついてきたので、スッとかわした。

 だってリュウの前で他の男性とハグしたくないし、そんな、ハグする仲というわけじゃなかったから。あくまでファンとコスプレイヤーという関係だし。

 リュウは持っていた水晶を私の目の前へ見せるように持ってきて、

「梨花、この男性のほうに矢印が向いていますし、その矢印から黒くて紫色の煙が出始めました」

「じゃあコイツじゃん!」

 めっちゃデカい声が出たし、タイミングも完璧だったけども、誰もウケなかった。

 何だかクライマックスのような雰囲気だ。

 いやでもそうだ、そんなウケたかな? と一瞬考えている場合じゃない。

「何で貴方がこの世界に?」

 と私がファンの子に聞くと、そのファンの子はこう言った。

「逆に何で梨花さんがこっちの世界にっ?」

「私は異世界転移して、この神官に呼び寄せられるようにこの世界へやって来たんだ」

「何だよ! それ! あの覆面の男! あとこの神官もか! 何してんだよ!」

「覆面の男って何?」

「僕はさ! 覆面の男から暇潰しできる世界があるって聞いたからやっていたのに! 梨花さんがいるなら! こんなことしなかったよ!」

 一体どこからどう聞けばいいのだろうか、あんまり要領を得ない感じでどうしようかと思っていると、リュウが冷静にこう言った。

「まず貴方は何をしていたんですか?」

「僕はこの世界に魔物の絵を描いて送って眺めていたんだよ! 暇潰しにいいって覆面の男から言われてさぁ!」

 すると私はハッとしてから、

「そう言えば、君は漫画家志望だったね」

「覚えていてくれたんですか! 最高だ! 嬉しいです! 僕がもしプロの漫画家になったら僕の漫画をコスプレしてほしいと言ったこと! 覚えていますか!」

「勿論、それも覚えているよ」

「やったぁぁああああ!」

 そう言ってジャンピングガッツポーズをしたそのファンの子。

 いやでも、この子の話を聞く限り、何か、かなり真っ黒といった感じだけども。暇潰しに魔物を送るってかなりダメじゃない?

 そういう子だったと聞くと、何かなぁ、といった感じではある。

 リュウは落ち着いた声で、

「では何で最近魔物が強く、また増量していったんですか?」

「それは勿論コスプレ会に梨花さんが来なくなってしまったからです! だって梨花さんに会えないんだったらもうこの世の終わりじゃん! ストレス発散としてどんどん狂暴な魔物を描いて送って破壊していくところを眺めていたんだよ!」

 するとずっと黙っていた神官が叫んだ。

「やっぱりオマエのせいじゃないか!」

 それに対してリュウは神官を糾弾するように、

「それなら転移させたオマエたちのせいだろ!」

 と言ったんだけども、私は首をブンブン横に振ってから、

「でもそのおかげでリュウに出会えて!」

 と声を荒らげると、リュウは嬉しそうに私のことをハグして、

「梨花!」

 と叫んだ。

 うわっ、何か幸せかもと思ったその時だった。

 私の視界に映ったファンの子が憎しみの表情をしながら、怒鳴った。

「イチャイチャするな! 梨花さんは僕のモノだ!」

 そう言って、なんとさっきまで出現していた十メートルの怪獣と同じ魔物を召喚した。

 これはもうすぐに倒さないと、と思って、私はエイリーの神速で一気に攻撃を叩き込んでいると、リュウも神風魔法で加勢してくれて、どんどんダメージを与えていく。

 私は主に徒手空拳を奮って、リュウは神風を剣にして、切り刻んでいくような感じ。

 すると手応えが消えたので、神速モードをオフにすると、その怪獣のような魔物は黒い紫色の煙になって消えていき、アイテムと素材を落とした。

 全てが終わると、ファンの子はその場に尻もちをついた。

 だから私は言ってやることにした。

「私は私のモノだ! 自分の好きにする! だから私はリュウと一緒に居る!」

 ファンの子は震えながらも、まだ負けていないというような鋭い瞳をしながら、こう言った。

「じゃあこの世界を壊すような魔物を梨花さんの遠くに出して破滅させてやる」

 じゃあ、と思って私は神速モードで一気にファンの子を縛り上げて、拘束し、

「はい! 牢獄行き!」

 と言ってやった。

 ファンの子はいつの間にやらといった表情をしてから意気消沈した。

 私は神官へ、

「じゃあこういうヤツをどうにかする牢獄くらいあるんでしょ? あとはよろしくね」

 と言うと、リュウが、

「梨花、ファンだけどいいのか?」

「ファンは好きだけどストーカーは嫌いだから、返すね、ブレスレット」

 と私は答えてから、ブレスレットを外して、ファンの子の胸ポケットにねじ込んだ。

 結果、ファンは神官に封印されたみたいで、この世界から魔物が増えることはなくなった。


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