【04 見たことないイケメン】

・【04 見たことないイケメン】


 今日も泥だらけになりながらも、農業に勤しんでいた。

 休む時は普通に畑の、土の上に座って談笑するので、帰ってくれば服は土だらけで、いつの間にか顔に泥もついている。

 この村には天然温泉があり、時間があれば一日に何度も入りにいく。

 勿論男性女性で別れていて、女性温泉に入ってくる最低な男性はいない。

 仕事の合間に温泉へ入って、足を伸ばしている時だった。

 赤髪の女性が温泉場にやって来て、

「梨花さん、旅人がやって来ました。旅人は訳が分からず、いろんなところへ行く傾向が強いので、今は温泉から上がってください」

 この村にはあまり旅人はやって来ないので、やって来ると一気に村中に来たことを知らせる。

 確かに旅人は村のつくりとか分からないもんね、と思いながら急いで農夫の恰好に着替えたタイミングで、温泉場の入り口のところで大きな声が聞こえた。

「こっちは女性の温泉場だ! どっか行きな!」

 私はひょこっと顔を出すと、そこにはなんと鬼神騎士の主人公! 草薙リュウがいたのだ!

「キャァァアアアアアアアアアアアア!」

 黄色い声援を上げてしまった私の声に反応した銀髪の女性が、

「見るな! 今! お風呂入ってた子だ!」

 と言いながら私のほうを振り向くと、私が服を着ていたことに気付き、銀髪の女性が、

「いや服着てるじゃないか、じゃあ何でそんな声を上げたんだ」

 と言ったところで、草薙リュウ似が、

「すみません、このあたりからとてつもない魔力を感じたので。もうなんというか、ソフトクリームのバイキングくらいすごい存在が」

 草薙リュウ似が何か変な例えをしている……そうか、あくまで似だから草薙リュウじゃないんだ、そんな当たり前のことを心の中で反芻しながら、

「あの、一体何の用ですか?」

 と聞いてみると、その草薙リュウ似はちょっと目を泳がせながら、

「いや! 用というか! その! 魔力! 魔力感じまして!」

「えっ、私にですか?」

「いやぁ、ザックリと、クッキーの中のクルミくらいザックリとしか分かんないんですけども」

 とリュウ似が言ったので、私はすぐに、

「クッキーの中のクルミはカリカリ、じゃないですか?」

 と、つい言ってしまうと、

「そこは感性の違いですねっ」

 と優しく微笑んだ。

 ヤバっ、顔が可愛い。

 マジで草薙リュウに似すぎだろ! 猫っぽい顔が私のドストライクだ!

 若干会話の内容はアホっぽいけども、そこが全然草薙リュウじゃないけども、でもそれもいい! ギャップ萌え!

 私は何かもっと会話したい、もっと会話したいと思ってしまい、

「その、魔力の大きい人を探してどうするんですか?」

「それはですね!」

 急にその草薙リュウ似の男性は生き生きとし始めた。

 さっきまでちょっと挙動不審だったんだけどもえらい違いだ。

 もしかしたら自分の好きな話にはテンション上がる型の人なのかもしれない。

 草薙リュウ似は身振り手振りを交えて喋り出した。

「俺は特殊な素材を探して、服を作っているんですが、魔力の高い人に着てもらうと、その着ている人の魔力に影響されて、より強い服が出来上がるんです!」

「えっと、それは、服から魔力をもらうんじゃなくて、服が魔力をもらうんですか?」

「いえ! 相乗効果です! それぞれが影響し合い、服も人間も魔力が上がるんです!」

「で、貴方は特殊な素材と魔力の高い人間を探している、と」

「はい! そうです! 何か知りませんかっ!」

 と言ったところで銀髪の女性が、

「魔力ならここでは梨花が一番高いんじゃないの? 水と木の魔法が使えるし」

 すると草薙リュウ似の男性が目を輝かせながら、

「二属性ですか! それはなかなかですね! ちょっとお話よろしいですか!」

 えっ、これ、もしかするとモテてる……? モテてるとはちょっと違うかもしれないけども、草薙リュウ似とお近づきになるチャンスなんてと思っていると、私はふとあることを思い浮かべた。

 そうだ、私は魔法のバスローブを持っている。

 あの魔法のバスローブをお近づきの印として、彼にあげようかな、と思った。

 きっとあの魔法のバスローブは魔法のバスローブなんだから特殊な素材のはず。

 そうすれば彼もきっと喜ぶはず!

 ということで!

「あの! 私! 魔法のバスローブを持っているんで、貴方にあげますよ! きっと特殊な素材のはずです!」

「魔法のバスローブですかぁ! それは興味があります!」

 一瞬甲高い声になったところが通販っぽくて、何だかおかしかった。

 いやでも何だかいい感じだ。

 さっさと私の家へ案内しよう。

 すると銀髪の女性が近付いてきて、耳元でこう囁いた。

「やっぱり梨花もイケメンが好きなんだっ」

 私はビックリしながらも照れ笑いを浮かべると、

「旅人との出会いは大切にしないとダメだからな、しっかりやってこい」

 と背中を叩かれた。

 めっちゃ応援してくれてるからマジで頑張ろうと思った。

 男性は頭上にハテナマークを浮かべながら、

「何か、俺、邪魔ですか? 一旦去りましょうか?」

 と言ったところで銀髪の女性が、

「いいの! いいの! こっちの話! 畑の話! こっちはしっかり耕すからそっちもって話!」

 色恋沙汰で耕す例え初めてだな、と思いながら私は、

「ではこちらへどうぞ、魔法のバスローブを見せてあげます。家に来てください」

 と手招きすると、草薙リュウ似は小首を傾げながら、

「いやいや、俺集会場にいるので、そこに持ってきてほしいです」

 と言ったので、えっ、この人、面倒くさがり系? とか思っていると、

「だって、初めて出会った男性を家に招き入れるなんて危険ですよね? 俺はちゃんと他の人がいるところで待っていますから持ってきてほしいんです」

 うわっ、紳士かよ、好き過ぎる。

 すると銀髪の女性が、

「じゃあ私も行こうか? 一応第三者の人間がいたほうがいいなら。それに途中から私は外で待ってもいいし」

 めちゃくちゃ優し過ぎる、最高かよ、と思っていると、草薙リュウ似が、

「まあそれなら……ですけども強い男性も必要だと思います」

 と言ったところで銀髪の女性が、

「まともに魔法使える人間は梨花くらいしかいないから、多分梨花が一番強いからこの村に強い男性なんていないよ! だからこれで大丈夫なんだって! 男女の違いなんてちょっとした筋力しかないこと旅人なら知ってるだろ!」

 アシストしまくってくれる、私が男性だったら絶対銀髪の女性・バルさんに恋してるな。

 それを聞いた草薙リュウ似が、

「それなら分かりました。それでは家に上がらせて頂きます。よろしくお願いします」

 と頭を下げたので、礼儀の正しい感じがめっちゃ良かった。

 家へ歩いている途中に草薙リュウ似が、

「ところで、魔法のバスローブとはどういったモノなんですか?」

「着ると体の疲れが一瞬にして無くなる優れモノなんです」

 それに対して銀髪の女性・バルさんは頷くだけ。

 会話に入ってくれてもいいのに、あくまで邪魔しないようにしてくれているみたいで、並んで歩く私と草薙リュウ似から三歩後ろを歩いてきてくれている。神かよ。

 草薙リュウ似は頷きながら、

「疲れが一瞬に無くなるとは! それはかなりの服かもしれませんね!」

 かなりテンションが上がっているみたいで嬉しい。

 そんなこんなで私の家へ着き、私の家の中へ草薙リュウ似とバルさんも入った。

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