エスコートもできない
「それじゃ、気を取り直していこっか!!」
そう言って赤堀ツバメは真っ白な歯を見せてこちらに手を伸ばした。先程の人間離れした早業を見せつけられていなければ危うく惚れてしまいそうなところだった。
「…う、うん。」
(何この子?!やばいって!!え、仮にも俺勇者だよ?!世界最強だよ?!その俺にも見えない早業ってなに?!)
そして地上への帰還を目指して歩く道すがらツバメがこちらに綺麗な黒い瞳を向けて聞いてきた。
「えっと、それで名前は確か、クロス?だっけ。出身はどこなの?日本語すごい上手だけど名前的には外国人だよね?」
「…う、うん。えっとこ、ここは確かト、トーキョー?だっけ。ぼ、僕の生まれはルナーラ王国のはずれの名前もないち、小さい村だよ。」
「ルナーラ王国…?聞いたことないな…。私が無知なだけかな?」
(ルナーラ王国を知らない?!大陸一の大国のはずだが?!俺はそんな遠い所まで来てしまったのか?)
そして、そうこう話しているうちに出口が近づいてきたのか人が段々と増えてきた。重戦士のように重い鎧を身につけ身の丈ほどもある大盾を持っている人もいれば、ツバメのように比較的身軽な格好の人もいる。ただほとんどの人が3〜5人ほどの集団でいたのに対し、ツバメのように1人でいるのは全くいなかった。
「…つ、ツバメさんはなんでひ、1人だったの?」
「ああ、私はいわゆるソロ冒険者でね。まあ修行を兼ねてるっていうのもあるんだけど。」
「…へ、へぇ。」
「さっ、そろそろ地上だよ。」
そして出口を抜けると先には見たこともない景色が広がっていた。見たことも無い材質の床、見たことも無い材質の壁、天井からは長方形の絵が吊るされており、その絵が動いていた。
「…つ、ツバメさん。こ、これは一体?」
「これって何?」
「…え、えっと床の材質とか、か、壁とか、あ、あと空中にある、あ、あの四角い、動く絵?」
「えーっと、床は多分セラミック?なのかな?壁はうーん、あんまりその辺詳しくないから分からないなぁ。あの天井にあるのは電子スクリーンだよ。え、どれも知らない感じ?」
クロスは肯定の意味でブンブンと首を縦に振った。
(なにこれ?!知らないものだらけなんだけど?!え、国が離れるとこんなにも技術レベルが違うの?!どゆこと?!)
「うーん、ルナーラ王国?はそんなに発展してない国なのかな?けど装備のレベルとか見るとむしろ私より良い装備に見えるんだけど…」
ツバメはクロスの鎧や剣をまじまじと見た後にうーんと唸って結局何も分からなかったのか切り替えたように「よし!」と大きな声を出した。
「とりあえず受付に行こっか!クロスのこと報告しなきゃだし!」
そしてツバメに連れられて受付に行くと、そこではスーツに身を包んだ女性たちが装備に身を包んだ人達を相手にしていた。
ツバメは行きつけの受付嬢でもいるのか一直線に向かっていった。その人は茶色い瞳にサラサラとした黒い髪を後ろでひとつに縛りあげたいかにも仕事ができそうな雰囲気の女性であった。さらに目元の泣きぼくろが彼女をより一層魅力的に見せている。
「すいません、橘さん。ちょっと報告したいことがあって。」
「はい、なんでしょうか。」
「えっと、こちらの彼。ダンジョンの中で倒れてたんですけど新手の転移型トラップ?に引っかかったのかもしれなくて。話聞く限りかなり遠いとこから来たっぽいんです。」
「なるほど、かしこまりました。ギルド長を呼んでくるので少々お待ちください。」
そう言って彼女は急いでバックヤードへと向かって行った。
それから数分も経たないうちに受付嬢が戻ってきた。
「赤堀様とそちらのお連れの方…」
「…ク、クロスです。」
「…クロス様、ギルド長がお呼びですのでお越しください。」
彼女に案内されるがままに奥の方へと向かうとそこには無精髭が生えた冴えない雰囲気のおじさんがいた。黒い髪は整えられていないのかボサボサでメガネの下に見える目には隈が出ている。
「どうも、私がギルド長のハセガワ、と言います。よろしくお願いします。それでそちらの金髪の方が例の?」
「はい、クロス様です。」
「君はどこから来たのかな?」
「…え、えっとルナーラ王国のはずれの名前の無い小さな村です。し、知らない、ですかね?」
「ふむ、ルナーラ王国ねぇ。橘さん。」
そう声をかけると橘さんは既に手元で長方形の先程の電子スクリーン?のようなものをいじっていたようで、顔を上げた。
「ただいま調べたところそのような国はこの地球には存在しません。」
それを聞いて俺は驚愕した。ルナーラ王国といえば大陸一の大国、知らない人の方が珍しい。その国を知らないどころが存在しないとまで言い切るのはおかしな話だ。何かがおかしい。
「…あの、そ、そんな、はずは…」
『えーい!ご主人ったら!「えっ」とか「あっ」とかまどろっこしい!!私に身体貸しな!!』
(ちょっ!アスティ!待っ…)
「なるほどな!つまりどういうことだ?!」
そして突如として変わった俺の様子に周りの3人は驚いたようで目を丸くしつつなにか不気味なものを見る目をしている。
実はこの聖剣アステリアは持ち主の体をほぼ強制的に乗っ取ることが出来るのだ。非常に危険な能力だが、アスティ本人の性格がそこまで悪いものでもないため今のところ実害は出ていない。実の所平民たちと接する時もほとんどはアスティが接してくれいたのもあるのだ。そのおかげでか、俺はコミュ力も高いものだと思われている節があった。
「こほん、いきなり様子が変わったのは置いておきまして、つまりですね。クロスさん、あなたは異世界から来たのですよ。」
「い、異世界だぁ?」
(はぁ?!?!)
「あーえっとつまり何らかの要因であなた、クロスさんは世界を渡って別の世界、こちらの世界へと転移してきたということですね。」
そうギルド長のハセガワはメガネをクイッと上げながら淡々と説明する。隣りのツバメさんも驚いているらしく口をポカーンと開けている。
「前々から言われていたんですよ。このダンジョン、実は異世界由来、別の世界から来たものではないのかと。明らかに地球の物理法則とは違ったもので成り立っていますからね。だからこそ異世界の存在自体は驚くこともありません。」
「こいつは、とんでもないとこに飛んできちまったみたいだな…」
しかしそれなら納得だ。あの訳の分からない道具や材質の数々。ここはどうやら俺たちのいた世界より遥かに発達した文明を持っているらしい。
「という訳でまずはクロスさんをこちらで保護させて頂きたいのですがその前にあなたのことをもっと教えてください。」
「というと?」
「能力の測定をします。」
異世界勇者、現代にて無双できない @Wasabisanbisa
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