第29話 女神ルーナ様降臨! なんで、なんであいつがいないんだよ

 俺たちは7日間のヴェネッツラック祭を終え、いよいよスタードに帰る日が来た。


 あー豪遊した。色んな奴と仲良くなったわ。


 俺たちとマーコちゃん達は、マコモアゼル家のド派手な馬車でスタードに戻ることになった。


 俺たちの前には、リッチーやジェリーを始めとしたヴェネッツの有力商人たち、そして俺の兄弟分であるヴェネッツの冒険野郎どもが大勢集まっていた。


 「兄貴! またヴェネッツに来てくださいよ。で、また酒おごってください」


 「馬鹿野郎が。もうおごらねーよ。兄弟たちよ、また会おう!」


 「兄貴~」


 「だから、その兄貴ってのやめろって! 俺はまだ17歳だ」


 俺は冒険者からジェリー達に目を移した。


 「長いこと世話になったな」


 「いえいえ、私たち商人組合を助けていただいたこと、この恩は決して忘れません。困ったことがありましたら私かリッチーにご相談ください」


 この2人、何か雰囲気あるんだよな。


 「なあ、あんた達ってどういう関係なんだ?」


 すると、リッチーとジェリーが目を合わせた。


 「いや~元夫婦でして。今でも、仲はええんですけどね」


 「あなたの今後の努力次第で、今後もっと仲良うなるかもしれませんね」


 うーん、俺の冒険がきっかけで2人の仲が元に戻るかもな、もしかして。


 「なるほどねぇ。どおりで雰囲気が似ていると思ったのだよ。別れた2人に復縁の可能性か、実に興味深いねぇ」


 次来るときには、うまくいってるかもな。


 「私の活躍も忘れないでよ! コンブーメにとどめを刺したのは、私の必殺ファイアボールなんだから」


 マーコちゃんはしきりに自分の功績を誇っている。いや、倒したの俺なんだけど、まあいいか。



 こうして、多くの人々に見守られながら、俺たちは馬車に乗り込んだ。


 「さすがはマーコちゃんだぁ~」


 「さすがはマーコ様です! 最高です」


 馬車の中では、相変わらずマーコちゃんの英雄譚が止まらない。2人のガチファンも、何回聞いても飽きていないようだ。


 でも、変化があった。


 「今回の冒険の成功は私のおかげよね! でも、私を助けてくれてありがとうね、パワー」


 マーコちゃんの視線が少し熱い。おっと?


 「フフッ。かわいいじゃないかい。彼らの中にも、少しずつ変化があったようだねぇ」


 右隣にいるマジョがそう話すと、左隣にいるプリンがこっちを向いた。


 「でも、一番頑張ったのはラックだよ。ビリビリのヌルヌルにされながら、コンブーメを倒したんだから」


 「マジで思い出したくないからやめてくれよ」


 そんな、どうでもいい思い出話をしていたら、気づけば数日経ち、あっという間にスタードに着いた。




 スタードに着いた頃にはもう夕方だった。


 街の入り口には、マーコちゃんの両親と、クロたちのパーティーが待ち構えていた。


 「娘を無事に帰していただき、本当にありがとうございました。なんとお礼を言っていいのやら……」


 「いいって。普通にクエストクリアしただけだし、問題なかったよ。マーコちゃんも活躍してくれたし」

 

 「そうよお父様。私のお陰でクエストをクリアしたんだからね」

 

 マーコちゃんのお父さんは、全て分かったという表情で俺の方を向いた。


 「それでね、お父様、私、ちょっと気になる人ができたの」


 それを聞いた瞬間、マーコちゃんのお父さんが殺気に満ちた顔になった。


 怖い怖い。俺はクロの方を見た。


 「よお、ラック。お前、ヴェネッツですごいことをやってのけたらしいな。スタード冒険者の代表として誇りに思うぞ」


 「ほんと、私たちの荷物持ちをしてたのが信じられないわね」


 ミドリが優しい表情で言う。


 「いや、俺は相変わらず弱いまんまだよ。ただ運がよくて、仲間に恵まれただけだから」


 「謙遜するなよ。あ、そうだ。今日は酒場に女神ルーナ様が来てらっしゃるんだ。今日は満月だろ? ほんとはみんなお前の迎えにくるつもりだったんだけど、女神様の方に行ってしまったんだよ。あれ、ラックは会ったことなかったか、ルーナ様に」


 ルーナ様? 以前クロの話で聞いた、辺境都市スタード所属の、冒険者の女神様だよな。


 「いや、俺はそもそもあのクソエレクトラ以外の女神様に会ったことないんだわ」


 「そうか。じゃあ一緒に酒場に行って、乾杯しようじゃないか」


 「フフッ。女神様に会うのは久しぶりだねぇ。マウスちゃんも、女神エレクトラに復讐するというのなら、女神様がどんなものか知っておくと良いさ」


 「女神様かー。どんな人だろ、楽しみ~」

 

 俺も、楽しみだわ。




 俺たちが酒場に着くと、明らかに1カ所にいつもでは見られない人だかりができていた。


 「おう、ラックじゃねぇか! おめぇ、やりやがったみてぇだな。ルーナ様はこっちだ」


 ガイが近づいてくると、いつものように腕で首をロックされ、強引に連れて行かれる。


 「おい痛いってガイ」


 人だかりの中に入ると、そこには明らかに他の冒険者とはちがう、可憐な少女がいた。


 長いストレートの銀髪、銀色の瞳には幼さと美しさが同居している。


 そして、彼女の周りにはほんのり後光のような光が差している。


 はっきりいって見とれるぐらいかわいい。


 これが女神様か。


 「お、ヴェネッツの英雄ラックじゃねぇか。ほら、女神ルーナ様だ。俺たち冒険者の女神様だぞ。座れよ」


 冒険者仲間にそう言われて、俺たちはルーナ様の目の前に座った。


 「どうも、初めまして。ラックって言います。こっちは俺のパーティーです。あ、1人どっか行きましたど」


 そう言うと、ルーナ様はとても興味深そうに俺たちを見ている。


 「あなたがヴェネッツの英雄ラックさんですか。お話は聞いています。私は辺境の女神ルーナです。冒険者の女神と言われています。私は、冒険者の方々の無事を常に祈っています」


 なんて接しやすくていい女神様なんだ。あのクソエレクトラとは大違いじゃないか。


 「あの、俺女神様に会うの2回目なんですけど、女神様ってこんな風に俺たちと酒を飲むんですか?」


 ルーナ様は俺のことをじっと見ている。めっちゃかわいい。お人形さんみたいだ。


 「女神のあり方は女神によって異なります。人前に滅多に出ない女神もいますが、私はできるだけ多くの冒険者の方と交流するよう心がけています。普段は月一回、満月の時しか来られないのですが、お祭りや新年の時には一緒に祝いますよ」


 俺はじっと聞いている。なるほど、女神様によってあり方は違うのね。ほんといい女神様だなルーナ様は。


 「ラックさん達の様子は遠くから見ていましたが、素晴らしい連携ですね。1人1人は問題を抱えていても、お互いを補い合えば想像以上の力が出せる。まさに、冒険者の理想です」


 「いやー、そんな褒められても何も出ませんよ。そういえば、ルーナ様。質問なんですけど、ルーナ様は元は人間なんですよね? 何歳ですか? あと、レベルはどれくらいですか? 俺、復讐したい女神がいて、女神についていろいろ知りたいんです」


 「おい、女神様に復讐だなんてまだ言ってんのかラック。いい加減諦めたらどうだ」


 後ろからクロの声がするけど、俺はじっと女神様を見ている。


 俺の話を聞いたルーナ様は、少し難しい顔をした。


 「ラックさん、あなたの抱えている事情は知っているつもりです。私の年齢は20歳です。18歳で女神になりました。女神になる人間は、もともと生まれつきレベルが高くて、私は今はレベル60です。……おそらくあなたが復讐したいと思っている女神は、女神の中でも最強格で、最低でもレベル100はあるはずです。私が今言えるのは、これだけです」


 マジか。ルーナ様レベル60あんのか。すげえ強いじゃん。


 そして、エレクトラはレベル100以上。マジで言ってんのかよ。 まるでゲームの世界じゃねえか。 


 そういや、マジョが今すぐエレクトラのところに行ってもかなわないって言ってたな。そういうことかよ。


 じゃあ俺はどうすりゃいいんだ。レベル100だなんて、一体何年かかるんだよ。


 「ラックさん。私にできるのは、皆さんの話を聞いて、心を癒やすだけです。これからも気になることがあったら、何でも聞いてくださいね」


 「ルーナ様ってめっちゃいい人、いやいい女神様ですね。ぜひ仲良くさせてください。あ、あと」


 俺はそこで言葉を切った。


 「何ですか?」


 「女神様って、その都市の中から結婚相手を見つけるんですよね。まだいなかったら、俺、立候補してもいいですか?」


 すると、それまで鏡のように美しかったルーナ様の顔が、真っ赤になった。


 「え、えっと、わ、私は女神になったばかりですから、そ、そういうのは、まだ、考えたことがないって言うか……」


 照れてるな。めっちゃかわいいじゃん。


 その時、右から頬を思いっきりつねられたと思ったら、左から妨害魔法が飛んできて俺は地面に這いつくばった。


 「うわっ! 痛ってぇな。何すんだよ、ちょうどいいところなのにさ」


 「ほう。マウスちゃんはルーナ様に交際を申し込もうとしていたねぇ。私との契約を忘れたとは言わせないよ。少なくとも君の願いが叶うまでは、ずっとそばにいてもらうからねぇ」


 マジョが笑いながら滅多に見せない怒りの顔を見せてる。こわ!


 「ラックって、いつからそんな、優柔不断なだらしない主人公みたいになったの? 私、そういうの嫌い。私たち、一応キスしたんだよ?」


 プリンこそ、面倒なヒロインみたいなこと言ってんじゃん。こっちも怖いわ。


 えーっと、話をそらさないとやばいぞ。


 あ、そうだ。


 そういや、今日見てないな。どこいるんだろう。


 「ところで、ミッキーはどこにいるんだ? 今日はまだ酒場に来てないみたいだけど」


 俺がそういった瞬間、それまで楽しそうに飲んでいた冒険者達が黙ってしまった。


 ん? 何だよその反応は。


 「おい、どうしたんだよみんな。ミッキーはどっか行ってるのか?」


 俺は冒険者達を見るけど、誰も答えない。


 あれ? どういうことだこれ。 おかしいぞ?


 「クロ、なんかさっきから変だけど、ミッキーはどこにいるんだ?」


 クロは深刻そうな顔をしている。一体どういうことだよ。


 「……ミッキーは、実家に帰ったそうだ」


 「実家? どこだよそれ。帰省でもしたのか?」


 クロは苦しげに首を横に振った。


 「いや、それがもう帰ってこないらしい。俺たちも知らなかったんだが、ミッキーは貴族だったんだよ。ユタカーのロッキーロード侯爵家の娘さんだったんだ。お家のご事情で、仕方ないそうだ」


 は? 貴族だった?


 だから何なんだよ。そんなの知るかよ。


 帰ってこない?


 マジで言ってんのかそれ。ふざけんなよ。


 「おい、お前ら、マジで仕方ないとか思ってんのかよ。どんだけの冒険者がミッキーに助けられたと思ってんだ。俺もそうだ。俺も、ミッキーがいなきゃ今ごろこの世界で死んでたんだぞ。それを、そんなミッキーを、いなくなってもいいなんて本気で思ってんのかよ!」


 誰も言葉を発しない。


 仕方なしといった感じで、クロが口を開いた。


 「ラック。お前の気持ちはよく分かる。でもな、相手は貴族だ。冒険者が貴族の事情に口を挟むなんてできるわけないだろ。俺たちだって悔しいんだ。悔しいけど、これはミッキー本人が決めたことなんだ。分かってやれ、ラック」


 そういや、ミッキーあの時言ってたな。「いろんな事情を抱えてスタードに」「ずっと冒険者をやる気はなかった」って。


 そういうことか。全部つながったわ。


 あの時、何か言いたげだったんだよな。何で俺は気づけなかったんだ。


 クソっ。一番自分に腹が立つわ。


 「分かってたまるかよ! ミッキーが貴族だからって何だってんだ。俺は、ミッキーから直接理由を聞くまで絶対に納得しないからな」


 その時、奥のテーブルで男が立った。ハイだ。


 俺はハイの方に向かっていった。


 ハイの胸ぐらをつかむ。ハイは一切抵抗しない。


 「ハイ、お前がいながらどうしてこんなことになるんだよ。おかしいだろ! ミッキーはスタードのみんなの太陽だ。キャラバンも、ミッキーも、いなきゃダメなんだよ。何でお前止めなかったんだよ!」


 俺はもしかしたら、涙ぐんでいたかもしれない。


 ハイは口を開いた。


 「……ミッキーを止めなかったのは俺だ。キャラバンの業務は俺が引き継いだ。言いたいことなら何でも言え。今日だけ聞いてやる」


 ハイは、口ではそう言いながら、ものすごく悲しい顔をしている。


 「ラックさん、ハイもつらいの。下ろしてくれない?」


 ユウの声がして、俺は冷静になった。俺はハイをつかんでいた手を離す。


 ハイはドサッと床に倒れ込んだ。


 「わかった。でも俺は納得なんかしねぇ。ユタカーに行って、直接ミッキーに会ってくる。誰に何と言われようとだ。そして、ミッキーを必ずここに連れ帰る。文句はねぇな!」


 もう、誰も俺を止めるやつはいなかった。


 「マウスちゃん。私は君の行くところについて行き、実験の見返りに君の願いを達成するだけだよ。もちろん、ミッキーをここに連れて帰ろう。どんな手段を使ってもね」


 マジョがそう言うと、プリンが続いた。


 「私も、ミッキーに会って話がしたい。私も、ミッキーに助けられたから。話も聞かないであきらめるなんてみんなおかしいよ」


 「おらも、ラックについて行くだぁ~」


 すると、それまで黙っていたルーナ様が近づいてきた。


 「ラックさんの熱い思いは伝わりました。スタードには私のようなたまに来る月だけではなく、常に皆を照らす太陽も必要です。責任は私が持ちます。ミッキーさんを再びスタードに連れてきてください」


 女神様にここまで言わせちゃ、やるしかないよな!


 「ありがとうございますルーナ様。必ずやりますよ、俺!」


 ルーナ様の後押しを受けたことで、黙っていた冒険者達も声を上げた。


 「頼むぞ、ラック! ミッキーと会って説得してくれ」


 「お前が頼りだ! ラック」


 みんな、本音では心配してたんだな。


 俺はやる。必ず、ミッキ―に会って、連れて帰るんだ!

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