第2話

安宿で部屋をとった後は冒険者ギルドへ向かった。

ファンタジーでよくあるやつだ。依頼の掲示があったり魔物のドロップ品を売却したり。

近場のダンジョンの情報も取り扱っている。


この世界でダンジョンとはなんだかよくわからないモヤのような霧がある場所のことを指す。

宙に浮かぶ霧の中に足を踏み入れると全く違う場所に移動する仕組みになっているのだ。

マジで仕組みはよくわからない。


ロケーションもダンジョンによって様々で、鉱石を採掘できたり美味しいキノコを採取できる森があったりひたすらに洞窟が続いていたり千差万別。

魔物はダンジョンから発生して地上に出てくると言われている。

魔物を倒すと煙のように姿を消しドロップ品を残す。これまた様々で肉の塊がドンと手に入ったり何故か精製された絹の糸が束で手に入ったりもする。

ゲームの仕様みたいだ。

危険だが生活のための資源ともなり、ある意味で人類との共生が成り立っているのかもしれない。


ここには目立った資源はない魔物が生まれるだけのダンジョンが複数あるようだった。

殆どがこのタイプではある。金が取れるダンジョンなんかも帝国の首都にあるようだが有用な資源が取れるダンジョン近辺は大都市になりがちだ。

魔物のドロップは有用であるし、人が入らないダンジョンからはすぐに強い魔物が溢れ出すということで資源が取れないダンジョンであってもこうして近くに町をおき管理されている。


ダンジョンの場所を確認して早速向かってみることにした。

野良の魔物退治は経験があるがダンジョンは初めてである。


『お母さんたちには入っちゃダメって言われてたもんね。任せちゃってわるいけど…』


『お願いされてもやらせねえから。大人しくしてな』


ダンジョンに踏み込み、剣を抜いた。

殺風景な洞窟が続いている。

ダンジョン内はこれまた謎の明かりによって視界が保たれていた。

俺たちは孤独とは無縁である。たいして緊張もせずに雑談しながら探索を進めていくと魔物を発見した。


毛むくじゃらの四足歩行の獣だった。角はないけどバッファローみたいな感じ。

こういう獣っぽいのは肉をドロップする事が多い。

背中側から近付き、横から剣を胴体へと振り下ろした。

大人用の両手剣で、この美少女ボディでは持て余しそうな得物だが軽々と魔物の胴体を切り裂き煙へと変えた。

力のステータスが二倍なのが有効に働いているのだ。ゲーム的な仕様があちこちにあるので、単純な腕力だけでなく物理攻撃力みたいなものが存在してるのかもしれない。

ウチで一番の力自慢だった大男よりも既に俺たちは力が強かった。美少女の細腕のままなのに理不尽すぎる。


思っていた通りドロップした肉塊を収納魔法で仕舞い込む。

これも転生特典で初めから使用できたのだが、魔物のドロップ品しか入らない仕様だったためほぼ使い道がなかった。汎用性が低すぎるってぇ。

収納魔法自体はけっこう一般的らしい。魔物を倒すと適性があるものは覚えたりすることもあるとか。

やっぱりドロップ品しか入らないらしいけど。

まあ変に仕様が違っても目立ってしまっていい事がなさそう。

だがこれがあれば荷物が増えるのを心配する事なく狩りに集中できる。使えてよかった。

洞窟を進んでバッファローもどきを倒していった。


しばらく進むと、白いモヤと黒いモヤが宙に浮いている。

黒いモヤは退却用になっていてダンジョンから出られる仕組み。めちゃくちゃ親切じゃん。

白い方は深層に進める。より強い魔物が数も一度に多く相手にする事がでてくる。

魔物もパーティを組むのだ。


全く問題なさそうなので先に進む。

攻撃も受けてないしね。

これくらいの戦いは幼い頃からやっていたので今更でもあった。


2層では魔物が二体でてくる事が増えてくる。

一体では大体不意打ちで終わっているのだが二体ではそうもいかないだろう。

ダンジョンの外では一体だけの場合が殆どだったのでここからはダメージを受けかねない。


二体のバッファローもどきを発見した。

向いている方向が違うため不意打ちも難しいと判断する。

こちら側を見ていた魔物が先に向かってきた。

向こう側を見ていた方がまだこちらに向きを変えようとしているうちにこちらから距離を詰める。

体当たりというより頭突きで突進してくる魔物とすれ違うように踏み込んで足を薙いだ。

右前足を切り飛ばされ突進の勢いのままに転倒する。こちらへ向かってくるもう一体。

転倒した相手を無視し向かってくる魔物へ向け、足を止めたまま合わせるように頭へ向かって剣を振り下ろした。

業物でもないだろうにたいした手応えもなくあっさりと頭をカチ割り煙に変えた。

三本の足でよろよろと立ち上がる魔物の首も刎ねてトドメを刺す。


ここで久しぶりにジョブのレベルが上がった。



ファイターLv12

力上昇 体力上昇

パッシブ:ダメージ低減

アクティブ:攻撃力増加


プリーストLv8

知性上昇 精神上昇

パッシブ:消費精神力低減

アクティブ:治療



この異世界、ジョブシステムも存在するのだ。

ステータスは訓練でも延びるが、レベルは中々上がらなかった。ジョブ経験値は魔物を倒して入手するのがメインで、訓練での入手は僅かなのだろう。


ファイターのアクティブは攻撃時に念じると攻撃のキレが目に見えて良くなる。攻撃力が上がるバフ効果がのっているんだとおもわれる。


プリーストのアクティブは名前の通り治療効果を持つ。病にも一定の効果があり便利なジョブだ。別に聖職者でないとなれないとかじゃない。

欠損までは治療できないらしいが、熟練になると治療効果が上がるそう。レベルとステータス補正かな。

消費精神力は恐らくMPみたいなものだと思われる。

アクティブスキルを使用し続けると気分が悪くなって使えなくなるのだ。HPやMPは俺のステータス表示でも見えないので感覚になってしまう。



一般的には村人というジョブに皆生まれたときからついていて、ギルドで管理している施設を利用し転職している。特に制限などもなくいつでも変更できるがそれなりに金がかかる仕組み。

何にでもなれるわけではなく適性があるかどうかでつけるジョブが変わるそうだ。

俺たちは魔物と初めて戦った時にファイターが、怪我を治療した時にプリーストが選べるようになっていた。多分このふたつはこの世界の人ならほぼ全員なれるはず。


俺のチートのひとつは自分で自由に好きな時にジョブを変更できること。

そして同時にふたつのジョブにつけることだ。



スカウトLv8

敏捷上昇 器用上昇

パッシブ:回避力上昇

パッシブ:クリティカル上昇



プリーストをスカウトに変更した。

回避力やクリティカル上昇の効果は正直よくわからない。ゲーム的表現すぎる…。

敏捷や器用のステータスは力や体力に比べて実感しにくいが、訓練でステータスを上げたことにより実際に効果がある事は自分自身の体感で実証している。

近接戦闘に強そうなデュアルジョブ態勢が俺たちの基本スタイルだった。

何かあった時のためにプリーストも上げているのでスカウトとプリーストのレベルはファイターに比べて低くなっている。

スカウトはいつのまにか手に入っていて条件がわからない。魔物を探してた時だった気がするのでそれが理由かも。


魔法使いのジョブも存在していて、圧倒的な火力がある事から魔物退治に猛威をふるうらしい。

だが転職するためには深層で手に入るドロップ品が必要で貴族たちによってほぼ独占されている。

魔法使いたかった…。


上位ジョブもあるようだが相当の経験が必要らしい。

ここで役にたつ俺たちのチートがもうひとつ。

俺たちは経験値も二倍になっていると思われる。


確定していない理由は他の人たちにはレベルが見えていないため、そもそもレベルという概念が知られていないのだ。

両親とレベルの話をした時に全く理解されず話にならなかった。

現代日本でも娘が突然、私のレベルは53万ですとか言いだしたら困惑するだろうから仕方ない。

それでも俺たちの成長速度からほぼ確信している事であった。


研鑽を怠らなければ必ず目標は達成できるだろう。

必ず殺してやる。



2層の探索を続け経験値とドロップ品を稼いでいく。

ダンジョンとは呼ばれているが残念ながら宝箱は存在しない。


『イリスって不思議で面白い発想をするよね。誰が財宝をダンジョンに仕込むの』


確かにそうなんだけどさ〜。欲しくなるじゃんね。

脳内でくすくす楽しそうなアイリにつっこまれながら進んだ。

黒いモヤだけが洞窟の突き当たりに見つかる。

ところどころに脱出口だけが存在しているのだ。

ちなみに一度到達すれば再度同じところから突入も可能である。ダンジョンに入る時に選択肢が出てくるらしい。親切仕様すぎて草。

ダンジョン内は広い。時計などはないがそろそろ戻る時間と判断し撤退することにした。


ギルドに向かいドロップ品の売却をしようとおもったのだがとてつもなく混んでいた。

そりゃそうか。ため息をつく。

ギルドは取り扱っている業務が多岐にわたるため、どの町でも大きく作られているのだが混み合う時間はとことん混み合うようだ。

ちなみに特に冒険者ランクとかは存在しない。

俺はSランクだとかイキリたおせる未来はないようだ。

BやCランクあたりのニイちゃんに弱そうな新入りだ〜とか絡まれるイベントも別にない。

面倒がなくてけっこうなことだがそれはそれで寂しい気もする。様式美だと思ってた。


喫緊で金が必要なわけではないのでさっさと宿に帰ることにした。

娯楽が少ない世界なので夜は酒や女遊び以外する事がない。

どちらも興味はないのでさっさと寝るに限る。

早朝から探索するつもりだった。換金はその時でいいかな。


安宿なので食事の質も残念なものだった。

魔物のドロップする食材は現代日本の質にも負けないレベルの美味であるため、金があれば味にうるさい現代人でも生きていける。しばらくは我慢しなければいけないかな。

食事をおえたら湯をもらい身体を拭いていく。

残念ながら風呂なんて王侯貴族くらいしか入らないらしい。日本人の魂的に許せないがいい加減もう慣れている。

寝支度を整えてとこについた。


『お疲れ様。戦ってくれてありがとう。明日からも頑張ろうね』


『お疲れ。馬車と宿の交渉助かったぜ。明日からもよろしくな』


最愛の半身と共に眠りについた。



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