第22話 漢の意地

「一撃耐えたからといって調子にのるではないぞ!!さっきのは全然本気なんかじゃなかったんだからな!!ワシが本気で攻撃していたなら、この辺り一帯がとんでもないことに——」


「師団長!!余計な事喋ってないで身体を動かしてください!!誰のせいで私たちがこんなことをやっていると思っているんですか!!」


「——うぐっ!わ、分かっておるわ……」


「分かっているならちゃんと反省して頑張ってくださいよ」


「はい……」


 師団員の一人に叱られ、大きな丸めてしゅんとしてしまう怒真利。


 怒真利の暴走による一撃は山田家の畑を半壊させた上、周辺の畑にも多大な被害を与えていた。

 とりわけ大きく抉れてしまった地面を何とかしないことには、畑の復旧以前に老人の多いこの村では、移動すら危なくて仕方がない。


 ならば被害の原因を作った怒真利がその責任をとるのが当然という話であり、周囲の農家の人たちから借りた鍬やスコップで陥没した穴埋め作業に取り組んでいた。他の第一師団員の者たちはその巻き添えを食らった形である。


「なあ、やっぱり俺も手伝った方が良いんじゃないか?」


 その様子を座って見ていた武流が隣の愛に向かって訪ねた。


「いや、あれは怒真利師団長が全て悪いのだから手伝う必要はありませんよ」


「せやな。いろんな意味で暴走しとった怒真利はんが悪いんやから全部任せとったらええねん。まあ、第一師団のもんはちょっと気の毒やとは思うけど、連帯責任ちゅうことでしゃーないわ」


「畑に空いた穴を埋めて元に戻したしても、うちの家の畑の作物を台無しにした穴埋めにはならないからねえ。はい、どうぞ」


 上手いこと言っただろ?どやぁ?的な顔をする武流の父——山田なぎさ

 やや童顔で、日に(月光に?)焼けた精悍な顔つきをした若者であるが、れっきとした四十歳の息子を持つ父親である。


 水筒に入って持ってきていたお茶を紙コップに入れて猫野瀬と愛に手渡す。


「おおきに。でもな渚はん。そこまで上手いこと言うとらんで?」


「はははは。そうか、自分では会心の出来だと思ったんだけどね」


「あ、私は面白かったと思います」


「愛さんあかんて、甘やかしとったらいつまでも成長せえへん。お笑いの道は長く険しいんや!」


「猫ちゃんのは何目線の意見!?いや、別にお笑いの成長はしなくても良いんだけどね……。あ、愛ちゃんもフォローありがとうね」


「畑に空いた穴を戻しても……台無しになった作物の……穴埋めには……?」


「武流はんにはこういうの向いてないんやから、分からんのやったらあんまり考え込まんとき」


「うん、武流にはまだこういう笑いは早かったみたいだね」


「遅すぎんねん!四十のおっさんに早すぎることなんて何一つないわ!」


「武流殿。今お父様が言われたのは穴埋めと空いた穴をかけて——」


「冷静に説明されるのも辛いな……」


「おい!!お前ら!!何をいちゃいちゃしておるんだ!!」


「師団長うるさいです!!作業に集中して——」


——カンカンカンカンカン!!


 わちゃわちゃとしているところにけたたましい鐘の音が聞こえた。

 その音は村にある物見やぐらに吊り下げられている鐘から発せられた音で、何かの異変を伝えるかのように村中に鳴り響いた。


「何事だ!?」


 怒真利が一早く反応して穴の中から飛び出してきた。


 愛と猫野瀬もこの村に来てから初めて聞く音に動揺し、武流の傍にそそそそっと近づいた。


「あれ?今回はちょっと間隔が短いな?」


 渚が村長に向かってそう言った。


「そうですね。前回が一週間前なので、いつもよりは大分早いですね」


 渚に同意するように村長が返す。


「武流殿。この鐘の音は一体……」


 愛が不安そうな表情を武流に向ける。


「ん?ああ、聞いた通りだ」


 武流は何でもないようにそう言ったが、愛と猫野瀬には何が聞いた通りなのか全く意味が解らない。


「聞いた通りってなんやねん……。うちには何か起こったんやろなってことくらいしか解らへんわ」


「おい!何が起こったんだ!?この鐘の音は何だ!?」


 怒真利は武流に殴りかからんばかりの勢いで詰め寄る。

 村の異変なのだから、この場に居る村長に聞くのが一番早いのだろうが、穴から飛び出してきた怒真利の目には、親密そうに寄り添う愛と武流の姿しか映っていなかった。


「武流君。これは村の外の人には解りませんよ。説明してあげてください」


 村長は優しく諭すように武流に声をかけた。


「あ、ああ。今のは『カンカンカンカン大骨出現カンカンカン村の南カン森の奥から村に向かって歩いてきているカンカンカンカンカンカンだ」


「モールス信号か!それと音と意味の長さがうてないやろ!最後の『よ』って別にいらんねん!」


「大骨というのはがしゃどくろのことだな!!」


 武流の訳を聞くと何故か急に嬉しそうな声を上げる怒真利。


「ちょうど良い!!貴様ががしゃどくろを倒したというのであれば、それくらいワシ一人でも出来るということを教えてやろうではないか!!」


 いつの間にか武流を貴様呼ばわりである。

 そしてそんなことは誰も教えて欲しいとは思っていなかった。


「怒真利師団長!落ち着いてください!あなたが強いのは十分に承知しております。しかし、それでも一人でがしゃどくろと戦うというのは——」


「何を言っておる!!そこのおっさんに出来てワシに出来ぬはずはない!!村の南だな?おい!お前たち!さっさと向かうぞ!!」


 愛の忠告を無視するように怒真利は穴から出てきたばかりの師団員たちに檄を飛ばした。


 怒真利のがしゃどくろを一人で倒す宣言は当然聞こえていた師団員たちであったが、いくら怒真利が無謀なことを言っていたとしても、災害級の敵が出たとあらば村人を置いて退くわけにはいかない。


 自分たちは誇り高き退魔隊第一師団であり、それを率いるのは退魔隊最強と謳われる怒真利。しかも第八師団長である愛と、その副師団長である猫野瀬もこの場にはいる。第一師団は今回副師団長を欠いている。しかしその現状であっても、この戦力ならば何とかなるのではないかという思いもあった。


「村の南というと我々が来た方角だな?よし!総員全速力で向かうぞ!だが決してお前たちは手を出すな!敵はワシが一人で倒すからな!!」


 師団員たちはこう言い出したら怒真利が人の意見など聞かない事を知っている。

 いや、唯一彼を制御出来るのが副師団長なのだが、今は不在でそれも叶わない。

 なら大人しく指示に従ってついていき、いつでも戦闘に加われるよう態勢を整えていることが自分たちの責務だと、これまでの経験から瞬時に判断した。


 そして一人駆け出した怒真利の後を急いで追って村の入り口方向へと走っていった。


「行ってもうたな……。うちらはどないする?」


「それは……行くしかないんじゃないのか?」


 猛スピードで走り去っていった怒真利と第一師団員たちの背中を呆然と眺めながら、二人は深い溜息をついた。



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