《自分の存在価値》
海月という名前は変わっているが一応本名である。自分を助けてくれたモグラが名付けてくれた大切な名だ。
また様相は占い師をやっているからか、はたまたモグラが着用しているからか男性用のチャイナ服を常用している。端正な顔立ちは雪のように白い肌を持つ高身長のイケメンで、黒髪の短髪から覗く黒目は切れ長。特に右目には三つのほくろが並列して並んでいる。
見た目は近寄りがたいイケメンだが、海月はもっと変わっているところがある。それはモグラと居る時にわかることだ――
「ただいまです」
海月が帰る頃にはやはり店は閑散としていた。店に現れたのが客でなかったことへ店主は……いや、モグラが苛立った顔をしてこちらへ向ける。
「なんだよ~くらげかよぉ。暇なんだよ~こっちはよぉ~」
「仕方ないじゃないですか。お客さんはいないんですし」
「暇だ~!」ぶらぶらと足を揺さぶり机に突っ伏すモグラに海月は深く息を吐いた。
「また占いが当たらなかったんですか」
「インチキだって言われた! カード占いも開発したの俺なのに……」
「もしかして水晶占いも見えなかったんですか」
「……見えなかった」
息を吐きぶすりとしているモグラへ海月は表に出て『営業中』と掲げた。それから海月は舞い戻る。そして、泣き出しそうなモグラの肩を叩いた。
「まぁ占いは任せてくださいよ。モグラさんは多方面で色んな事をされているから良いじゃないですか。……とか言って、占いを教わったのモグラさんからなのでなんだか複雑ですけど」
「うっさいな~、腕が落ちただけだし!」
「それだけ元気なら占いのアシスタントとして手伝ってください。――あっ、お客さん来ましたよ。結構お金使ってくれる人だ。モグラさん、お茶を」
「……弟子のくせに」
さらにぶすりとしつつも前茶を淹れて上客に差し出したこげ茶色の硬質な髪のチャイナ服は弟子に尽くすのであった。
「はぁ~。疲れた……」
次々と客を捌いていき、予想を上回るほど客が来てくれたおかげで閉まるのが遅くなってしまった。閉まる頃合いにはくたくたで使った水晶を磨き、カードを整理したり掃除したりして店を後にし自宅へと戻る。
先に戻っていたモグラが料理を作っていたらしい。「用意できたぞぉ~!」声を掛けて出てきた料理は――
「お~豪華ですね。蜂の子の唐揚げにミミズのサラダにミルワームのスープだ。おいしそう」
「うまそうだろ~。ミミズなんて獲れたてだからな。まぁまぁ早く食べようぜっ!」
ゲテモノ料理をうまそうだという海月とモグラは炊き立てご飯にドライミルワームをふりかけて食し料理も食べていく。
「うまいうまいっ!」などと食しながらもモグラは思い出したように冷蔵庫からなにかを取り出した。それは白い物体で上には赤いものが六つぐらい円を描くように並んでいる。そして茶色のプレートには白い字で『クラゲくん ハッピーバースデイ!』などと記されていた。
海月はミミズを噴出しそうになる。それは自分とモグラが出会った日にちであり、――自分が死ぬべき運命の日であったのだから。
「あれから十五年は経っただろう? いい加減、自分の生誕を認めたらどうだ?」
ミミズを食した海月が噛んで飲み込んだ。それから甘く、そして白く渦を巻いた物体を見やる。自分が保護されて、育てられてからモグラに誕生日祝いだと言われてケーキを出してもらったが、素直に喜べないのだ。
価値のない人間が、本来は生きてはならない人間が祝われても困惑するだけである。クリームの甘ったるい匂いが鼻について仕方がない。
「……俺は、生きてても仕方がないんですよ。本当は、海の供物として奉納すべき人間でしたから」
海月が誕生日ケーキを拒絶するようにそっぽを向く。「美味しいのに~」モグラはなんてことないようにケーキを取り分けて食べていた。海月の反応などお見通しのようだ。
ケーキを取り分けてもらったが、海月は一向にフォークで食べようとしない。ケーキを拒絶するようにフォークで刺したままだ。するとモグラは諦めが付いたように自分の元へケーキを引き寄せた。
海月が安堵する。だがモグラは突然、こんなことを言い放った。
「じゃあケーキを食べない代わりに自分自身を占ってみなよ。ケーキはそれでチャラにしてあげるから、さっ!」
「えっ、でもモグラさん。自分自身を占うのは良くないって……」
「でも俺が占いを教えた頃は自分自身の占いをしただろう? そうしたら、十五年後にまた占ってみろっていうお告げがあったじゃん?」
「まぁ……そうでしたけど」
「じゃあやってみろって」
ショートケーキをこれでもかと貪るモグラが急に占いを勧めてくる。不審に思ったがケーキを避けられたので、海月はショートケーキを食べ終えたモグラの皿やら自分の皿を洗ってから、占いをしたのだ。――それが、海月の運命を変える出来事であった。
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