第28話 余韻の部屋

扉が開くと、そこには小さな部屋があった。 壁は柔らかな白。 床にはふかふかの絨毯。 窓はない。時計もない。 ただ、時間が“止まっているような”空間。

レナは、そっと座る。 ミコは、ぬいぐるみを抱えたまま、隣に座る。


「……ここ、何もないね」


「うん。でも、なんか落ち着くの〜♡」


沈黙。 でも、心はざわめいていた。 試練の記録が、まだ胸の奥で揺れている。

レナがぽつりと呟く。


「孤独って、誰かに見てもらえるだけで、ちょっとだけ軽くなるんだね」


ミコが頷く。


「ミコちゃん、レナちゃんに見てもらえて、ちょっとだけ“いてもいい”って思えたの〜♡」


部屋の空気が、少しだけ温かくなる。 壁に、光の粒が浮かび上がる。 それは、ふたりの“余韻”だった。


レナの笑顔の裏にあった、誰にも言えなかった寂しさ

ミコの甘い声の奥にあった、誰にも届かなかった願い


それらが、光となって部屋を満たしていく。


「……この部屋、記録じゃないんだね」


「うん、記録の“あと”なの〜♡」


ふたりは、ただそこにいた。 何も起こらない時間。 でも、それが必要だった。

やがて、部屋の奥に小さな扉が現れる。 その扉には、文字が刻まれていた。


「感情の外へ」


レナが立ち上がる。 ミコもぬいぐるみを抱えたまま、立ち上がる。


「行こうか」


「うん、レナちゃんとなら、行けるの〜♡」


ふたりは、扉を開ける。 余韻を胸に、次の世界へ。

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