第2話 夏祭り

 学校で見かけた時、本当にビックリした。

 あの頃と変わらず、かっこいい。


 でも、和希かずきさん……かーくん気づいてないみたいね。

 まあ、小学校に入る前に引っ越したし、父母から顔が変わったって言われてるし。



 あの、夏祭りの日、


 ●●●●●●●●●


「かーくん、おまたせ」

『へー朝顔柄の浴衣か。良く似合ってて可愛いよ』

「ありがとう。かーくんのゆかたもかっこいいよ』


『じゃ、行こうか』

「ママ、いってきます」

『行ってらっしゃい。あんまりあれ買って、これ買ってって言っちゃダメよ。和希君、笑美えみをお願いね』

『はい。お任せください』


 …………


「かーくん。あのひかり、なに?」

『ああ、あれはホタルっていう虫なんだ』

「ひかるむしがいるの?」

『ほら、そこの葉っぱに止まってるよ』


「ふーん、おしりがひかるのね」

『ホタルの淡い光はいいね』

「かーくんホタルすきなの?」

『うん』

「じゃ、えみもホタルすき!」



『ほら、夏祭り、もうすぐ着くよ』


 …………


『笑美ちゃん、リンゴあめ美味しい?』

「おいしい」

『そうか、良かったね』

「かーくんのおにく、おいしい?」

『うん、美味しいよ。やっぱり牛肉は美味しいな』


「ねえ、かーくんのおにく、ちょっとちょうだい」

『うん、かぶりついていいぞ』


 かんせつキスしたから、もうえみはかーくんのおよめさんよ。


 あっ!


「かーくん、ゆびわうってる」

『いらっしゃい。お嬢ちゃん、この指輪をはめると結婚して幸せになるんだよ』

『ちょっとおじさん無責任なことは言わないほうが「ほんとう? ねえ、かーくんかって!」』

『本気にしちゃったよ』

『おや、あんちゃんはお嬢ちゃんのことが大事じゃないのか?』

「ひどい、かーくん。えみをすてるの?」

『捨てるって……わかったよ』


「はめて」

『ん、いいよ』

「ちがう、そのゆびじゃない」

『え?』

「こっち」

『この指は結婚相手に指輪をはめてもらうんだよ』

「うん、えみはかーくんとけっこんするから」

『え、俺と? えーと、4歳じゃ結婚できないよ』

「おおきくなったらけっこんしよ」

『ありがとう……笑美ちゃんが大きくなって、そのときも俺のことが好きだったらね』

「うん」


 ●●●●●●●●●


 多分、かーくんまだ結婚してない。

 指輪してなかったし、フィットネスジムも外食も、家に帰りたがらない旦那さんというのとは違うと思う。


 彼女もいないと思う。

 彼女がいたら一緒に歩いてるとき、あんな慌て方はしないと思う。あれは女慣れしてない感じだ。


 よかった、ぽっと出のメスブタに喰われてなくて。



 右手を胸に重ねる。

 ペンダントヘッドの形がわかる。


 ペンダントヘッドは、あの指輪。

 指が入らなくなったから、ペンダントヘッドにして、いつも着けている。


 縁日で売ってるおもちゃの指輪だから、安っぽい赤のプラスチックの玉でリングも貴金属ではなくプラスチック、金メッキだか塗装だかも少しはがれている。


 他の人が見れば、全くの無価値。

 でも、あの夏の日の約束の証。私にとって至高の宝物。


 かーくんは今でもこの指輪の価値を認めてくれるかな。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ご訪問ありがとうございます。


 回想シーンの和希君は14歳、笑美ちゃんは4歳という想定です。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る