元カノがトラウマ

 それから曲を聴いていた二人だが、燈良はあることに気づく。

「これ、酷い下ネタじゃねーか」

「そうなの? 全然歌詞聴いてなかった」

「あの野郎……変な歌作りやがって」

「別にいいじゃん。そんなの気にする年齢じゃないし。私は平気だよ。それより、ギター上手いよね」

「…………」


 燈良にとって姉は、尊敬すべき存在。家族の仲で最も尊敬しているし、最も大切に想っている。幼少期の彼女の、姉としての行動に憧れ、当時の燈良の心を形成したからだ。

 そんな大切な存在を、下品極まりない下ネタで汚すことに、なんだか気まずい想いがあった。



「なぁ、姉ちゃん。今は彼氏とかいないのか?」

「いないよ。私、長続きしないんだよね。

 男の人が怒るの見ると、なんか無理ってなっちゃうの。私に対して怒ってるわけじゃないのに」

「親父の影響だろ、それ」

「多分ねー。燈良は良い感じの子とかいないの?」

「いないよ。俺は多分、元カノがトラウマになってるのかも」

 と、燈良は自虐的に笑うと、光莉は愛想笑いをした。


 燈良も過去に彼女がいたことはあるが、同様に長続きしない。

 長めに続いた彼女もいたが、その子は燈良の前で自殺を仄めかしたり、燈良に傷を負わせたことがあり、あまり良い思い出にはなっていない。



 それからCDを聴き終えると、二人は交代で風呂に入った。

 燈良が戻ってくると、光莉は電気をつけたまま眠っていた。イベントのバイトは立ちっぱなしで、声を出し続けるハードな仕事だと聞いたことがある。設営や撤去も絡むと力仕事にもなるため、彼女はとっくに疲れ果てていたのだろう。


 燈良はCDを仕舞い、電気を消した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る